つくり育てる漁業(栽培漁業)の根幹を成す種苗生産機能だけでなく、教育と産業観光の機能を併せもった施設として今春にリニューアルオープンした富山県栽培漁業センター(富山・氷見市)は現在、小学生の子供をもつ家族連れから大変な人気を博している。滞在時間は長くて1時間半~2時間の決して大きくない施設にもかかわらず、3か月間の累計入場者数は2.6万人に達した。猛暑が続いていた8月上旬に同センターを訪ねた。
1978年の建設から40年余りが経過して老朽化が進んでいた施設に対して大規模改修をかけたタイミングで、新たに整備されたのが「ふれあい館」と「交流館」という2つの新施設だ。ともに今年4月28日にオープンした。
中でも人気の「ふれあい館」の目玉は、魚をかたどった深さの違う2つのプールで稚魚に触れられる「ふれあいプール」。クロダイとキジハタという一般に高級魚とされている2魚種が放流されていて、子供たちはプールに足を直接踏み入れて触れ合うことができる。
多くの来場者が足を運んでいる理由について「新型コロナウイルスの『5類』移行に加え、入場無料なのが大きいのでは」と指摘する飯田直樹所長代理は、栽培漁業の普及啓発や地域振興に有効との評価に加え「種苗の生産過程で出る余剰分を活用している。本来ならあり得ない高級魚のタッチプールを運営できるのは栽培漁業センターだからこそ」と背景を話す。
想定外だったのは「クロダイが機敏で子供たちにつかまらない」こと。キジハタが人間の手から逃れ構造物の陰に隠れているのとは対照的に、クロダイはプールをわが物顔で泳ぎ回っているのも、魚の性格の違いが分かって面白い。
「ふれあい館」で「ふれあいプール」と並ぶ人気の展示が屋内の「エサやり水槽」だ。人数限定企画。毎日2回の決まった時間に配布するコインで「餌ガチャ」マシンからカプセル入りの配合飼料を手に入れ、ヒラメやキジハタに餌やりできる。
「特にヒラメは通常の飼育水槽より水深をとっているため、餌を追って水面から跳び上がる様子は大迫力」などと見どころを紹介。ほかにも屋内に小規模なタッチプールが3つあり、ヒラメやクルマエビなどの稚魚に軍手越しで触れ合うことができる。ヒラメは高水温のため9月下旬までの予定で展示休止中だが、再開したら一緒に楽しみたいところだ。
「ふれあい館」は北半分が年間20万尾超のクロダイ種苗を生産している飼育エリアになっていて、見学・体験エリアとはガラス張りで隔てただけのため、種苗生産の様子がいつでも観察できる。「見学・体験エリアをせり出すようにして見えやすいよう工夫した。稚魚を間近で見られる配置となっている」。
一方、「交流館」では稚魚の生態展示だけでなく、餌となる生物の顕微鏡観察、成長過程を並べ替えるパズルや魚の漢字パズル、魚釣り体験、富山湾の魚の生息水深当てクイズなどの仕掛けがあるほか、「土日・祝日は30分待ちの列ができることがある」という、3Dゲーム「バーチャル栽培漁業体験」ができる。選んだ6魚種をどれだけうまく種苗生産できたかで得点が出る仕組みと、1回のプレー時間が4~5分ながらやり込み要素がある。
従来の栽培漁業センターは、防疫リスクから来場者受け入れに消極的だった。ただ、閉鎖的な環境で仕事してきたために県民の認知度は低かった。栽培漁業の必要性を周知するには「県民に応援団をつくる必要がある。資源管理につながるものと理解してもらい、将来的に水産の道に進んでもらえるならうれしいし、そうでなくとも釣りなどの際に小魚を放流し『大きく育てよう』と思ってもらえれば」。
魚を学ぶのが好きになるのも、魚を食べるのが好きになるのも「子供の頃に魚に触れた経験が導入になるケースが多い」と飯田所長代理。年々貴重になる、魚に気軽に触れ合う機会を提供し続ける。