Vol.148  伝えたい 漁師のリアル

1月放送の新春5時間スペシャルのワンシーン。小田原のアブラボウズ漁で記録的大物をヒット(BS朝日提供)

 日常生活で交わる機会のない漁師という職業のリアルを伝えながら、魚食の魅力を余すところなく発信しているのが、(株)BS朝日で放送中のドキュメントバラエティー番組「魚が食べたい!~地魚さがして3000港~」(以下「魚が食べたい!」)だ。都合3度の単発での放送を経て、2020年10月にレギュラー化。4月末までに120回以上が放映されている。今では取材を待ち望む漁港があるほど業界内で注目を浴びている。同番組のチーフプロデューサーで、執行役員編成制作局担当局長の柴田聡氏に話を聞いた。

BS朝日「魚が食べたい!」

同じく新春スペシャルで登場した北海道の「タチ入りマダラ鍋」(同)

 等身大の魚大好きディレクター9人が全国の漁港を突撃訪問し、地元漁師らとの出会いと交流を通じてお勧め地魚料理を味わう。築地魚河岸3代目の小川貢一さんと見合い結婚し魚に詳しい声優・平野文さんがナレーターを担当する現地の映像を見ながら、スタジオでタレントの山口智充さんが司会進行していく。「魚が食べたい!」は、そんなスタイルで人気を博している番組だ。
 「もともと番組を担当する制作スタッフが、漁師さんを訪ねて一緒に地魚を捕獲し、その魚料理をいただくというコンセプトを過去の番組で経験していた。漁師さんが登場する企画は当時から人気があったので自信はあったのだろうと思う」と経緯を話したのは、1年半前にチーフプロデューサーに就任した柴田氏。
 当時のノウハウとコネクションを基に、タレントではなく複数のディレクターが現地訪問する形にアレンジし、番組はスタート。滑り出しは順調だった。ただ、訪問前にある程度の魚種を決め打っていた制作スタイルは程なく行き詰まると考えた。

主役を魚から漁師へ

「漁師を知ってほしい」と語る柴田氏

 漁の現場を少しでも知っていれば想像がつくだろう。基本的に漁師が出漁できるかどうかはお天道様任せ。季節で獲れる魚が移り変わり、それさえも近年の温暖化で不安定化している。「漁に出られず、狙っていた魚が獲れない」という問題は必ず起こる。近くの市場に行ってその魚に出合えたとしても、視聴者は納得しない。ディレクターが漁師と苦労をともにするから、食事シーンも共感を呼ぶのだ。
 また魚種には限りがある。そこで、柴田氏がチーフプロデューサーに就任後、番組の主役を魚ではなく人―つまり漁師やその地域を描くことで、この構造的な問題を解消しようとした。
 「漁の撮影は大変。ディレクターが撮った絵の中で使えるのはわずかしかない。それでも、ディレクターは地域に根差した漁師の営みを取材できることに喜びを感じてくれている」と柴田氏。「漁師さんという職業を多くの人に知ってほしい気持ちが強くある。海の男の仲間たちや家族との交流含めて見ていて気持ちいい。寡黙な人も背中や表情で語れる。生きざまを取り上げたい」。
 漁師らが直面する、漁獲減や高齢化などの切実な問題からも目を背けない。漁師らの日頃の苦労がしのばれる番組構成だからこそ、彼らが獲った魚の重みを知り、肉食化が進んでいる日本人にもう一度、魚食を見つめ直す説得力をもたせられる。

山口さんのロケも?

番組イメージと柴田氏。近く、司会の山口さん自らのロケ取材があるかも

 「魚が食べたい!」の成功は他局にも影響を与え、地上波で似たコンセプトの番組がちょっとしたブームになった。多く実績を積み重ねてきたことによる信頼で「訪問先からの協力が得られやすくなったし、ついに今年、海に面しているすべての都道府県を取材することができた」という。
 スタジオで司会進行する山口さんも、ディレクターたちの生き生きとした様子をみているうちに「自分も現場に」とロケ取材に前向き。「近くの特番で山口さん自らが訪問することがあるのでは」と予告してくれた。番組名にある通りに日本国内に約3000の漁港がある中で、訪れた漁港はまだ1割に満たない。次はあなたの漁港が突撃訪問を受けるかもしれない。

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