低価格で味も楽しめるB級グルメは知っていても、「Sea級グルメ」が初耳だという人はいるかもしれない。全国の「みなとオアシス」およびその周辺の名物料理であり、そのためか魚介料理が多く、味を競う全国大会も今秋で13回目となる。港町発のうまいもの自慢の共通言語に、Sea級グルメという言葉が広まりつつある。
Sea級グルメに話を進める前に、みなとオアシスを紹介する必要がある。主に地域住民の交流促進や観光振興の活性化に向け、「みなと」を核にしたまちづくりの拠点地域を指す。旅客ターミナルやマリーナのほか、橋などの港湾設備、水族館、展望塔、商業施設、さらには博物館、水上パレードが行われる“水域”を含むオアシスもある。こうした定義の緩さが「ついでにあそこも行ってみよう」と、港町を丸ごと楽しむ秘訣(けつ)になっている。
2003年に制度が始まり、昨年12月時点で147か所が認定された。それでも水産業界でいま一つ認知度が低いのは、管轄が水産庁(漁港)ではなく、国土交通省(港湾)のためだろうか。
ただ、みなとオアシス全国協議会の事務局を務める(一社)ウォーターフロント協会の平尾壽雄専務は、この点を「もったいない」と残念がる。
みなとオアシスには漁港地域を取り入れ、漁協も一緒になって運営する地域もある。その周辺で名物として日常的に食べられ、祭りなどのイベントで提供されているものは必然的に魚介料理が多い。昔は多く獲れていた魚でも、今は漁獲が減り、ただし郷土料理として定着している味もある。
山形県鶴岡市の「みなとオアシス加茂」は、世界最大級のクラゲ展示水槽を誇る加茂水族館が代表施設で、中華クラゲや姿クラゲを使った「クラゲラーメン」など新たに開発、販売している。
こうした料理が一堂に集まるのが、年に1度の「Sea級グルメ全国大会」だ。普段から漁協や水産企業と一緒に取り組むみなとオアシスは、魚や貝、海藻類の扱いにたけていて、イベントの集客力が高い傾向があるためか、大会でもひときわ輝く存在だという。
「ここが港湾の弱いところ」と平尾専務は指摘するが、漁港も同様。水産庁は漁港水域を有効活用した漁村の賑わい創出を促しており、港湾の施設機能も一体にした活動には魅力があるはずだ。
10月16?17日に全国大会の開催を予定する鳥取県境港市では、プレイベントとして昨年10?11月に「境港Sea級グルメ」を開催した。“市内飲食店が境港産の水産物を使って開発した新メニュー”という縛りだけの企画だが、完売が続出するなど大盛況のうちに終了したそうだ。
Sea級グルメはイベントに限らず、地元常設食堂で提供される料理も取り込んでいる。漁村で一から名物料理を発信するよりも、Sea級グルメという共通の言語を使えば、発信力は各段に上がるはず。平尾専務は「港湾と漁港(漁業)も一緒に、相互補完で知名度を上げていきたい」とし、それぞれの港から魅力発信を呼び掛ける。
本来ならばゴールデンウイークに「みなとオアシス探訪で食べ歩きを」と提案したいが、新型コロナウイルス感染拡大で、それも難しい。ただ施設は、横浜港や大阪港、神戸港など、都市部からアクセスしやすい地域もあるほか、全国各地で認定を受けている。
当面は地元のみなとオアシスで密を避けながら、知っているようで知らない名物探しをしてみてはいかがだろうか。