Vol.138  広がるオルタナティブフード

 昨今の海洋環境の変化は著しく、これまで食卓に当たり前に並んできたような水産物でも、不漁に悩まされている。資源減少による魚価の高騰も顕著で、一部ではその魚を食べる文化そのものの存亡も危ぶまれる事態となってきた。そんな中、水産物の代替食品の提案が加速している。食品企業がこれまで培ってきた技術を注ぎ込み、本来の食品と見分けが難しいほど高品質な商品が増えてきた。最前線を走る企業に話を聞いた。

【一正蒲鉾】量販・業務ともに展開、スリ身でウナギからウニまで

「ネクストシーフード丼」ができるほど充実した品揃えを誇る一正蒲鉾

 新潟県のねり製品メーカー一正蒲鉾(株)は、魚肉スリ身でウナギ、イカ、ウニの再現を成功させている。代替可能な食品「オルタナティブフード」として展開中で、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や水産資源の減少への意識の高まり、価格へのニーズなどと合致し、引き合いを伸ばしている。

 おそらく最も身近な存在は、量販店・スーパーでも見かける機会の多い「うなる美味しさ うな次郎」だろう。進化を続けて販売7年目を迎えるロングセラーで、ウナギを一切使用していないにもかかわらず、味や香りなどはウナギ蒲焼とうり二つ。幅広い年齢層から支持を得る人気商品だ。
 同社は業務用も手掛けており「うな次郎」以外にも、惣菜メーカーなどに「いか風かまぼこ」を卸しているほか、昨年から「ネクストシーフードうに風味」を通販専用品として試験導入して大きな話題となった。

代替ならではの価値

 ?代替?と聞くと本来のものより少し劣ったイメージをもつ人もいるかもしれないが、セールスプロモーション課の鈴木かさねさんは「(再現元と違う)さまざまな魅力がある」と語る。
 「うな次郎」を例にすれば、ウナギの小骨の心配がほぼ不要で、「ネクストシーフードうに風味」においては、プリン体を含まず、プリン体が気になる人でも安心だ。さらに値頃なため高級食材さながらの味を日常的に楽しめて、季節を問わず幅広い料理にも気軽にアレンジできる。安定供給できるといった点もうれしい。

目指すは共存共栄

 すでに写真のように「オルタナティブフード」だけで丼が完成するほど、品揃えが充実してきた。代替食品の将来的な立ち位置について同社は「選択肢を増やすことで、ともに食文化を守りながら、発展させていきたい」とし、再現元の淘(とう)汰ではなく共存共栄を掲げながら、今後も代替食品の販売・開発に力を入れていく方針という。

【カネテツデリカフーズ】ネットで話題に販売伸長、若年層支持集め消費拡大

水産業界をリードする「ほぼ」シリーズ

 また同じねり製品メーカーでは、兵庫県のカネテツデリカフーズ(株)のまるで本物のような味・食感・見た目に定評のある「ほぼシリーズ」も売り上げが好調だ。これまでにズワイガニのカニ身を模した「ほぼカニ」のほか、「ホタテ、エビフライ、カキフライ、タラバガニ、うなぎ、いくら」の7種類を発売。イクラ以外はすべてねり製品で再現している。

 ねり製品の夏場の需要拡大とカニの価格高騰を考えて、本物のカニに近いカニ風味カマボコを作ろうとしたのが、シリーズの原点である「ほぼカニ」のスタート。

 それ以降、味や食感などリアルにこだわる真面目な商品作りを続ける一方、同社は「食卓でクスリと笑ってもらえる、家族の話題のきっかけになる商品展開を進めていきたい」としている。

 ねり業界からの評価も高く、今年の全国蒲鉾品評会「特殊もの」の部では「ほぼカニ」が農林水産大臣賞を受賞するなど、すでに一目置かれる存在に成長している。

 老若男女問わずおいしく食べられる「ほぼシリーズ」は若年層の消費も広げ、ねり製品の普及拡大にも寄与してきた。

 ただ初めからヒットしたわけではなく、販売当初は苦戦を強いられた。そんな中、流れを変えるきっかけを生んだのが、交流サイト(SNS)の投稿。ネーミングの面白さが奏功し、若者を中心に拡散していった。伝統食品のねり製品がオンライン上で話題になることはこれまでになく、同社の想像を超える形で成功を収めていった。

 最初の「ほぼカニ」は2014年の発売以来、毎年売り上げを更新中。累計販売数4400万パックを記録している。

【相模屋食料】豆腐でウニを再現、女性などから熱視線

「うにのようなビヨンドとうふ」

 海のない群馬県でも、豆腐を使ってウニを再現した企業がある。大豆加工食品を製造・販売する相模屋食料(株)は、3月に「うにのようなビヨンドとうふ」を発売した。いわゆる植物性食材からできたプラントベースフードであり、健康意識が高い若い女性などを中心に注目を集めている。

 開発にあたっての合言葉は「ウニよりも、ウニらしく」。魚介だしで磯の香りやうま味を引き出すとともに、熟練の豆腐加工技術で濃厚なコクとクリーミーな食感まで表現した。

 醤油とワサビで食べればシンプルに品質の高さを感じられるほか、パスタやグラタンの調味料としても利用可能。使い勝手においてもウニに負けない一品に仕上がっている。

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