Vol.117  コロナ禍での魚食普及・オンライン祭り現場に潜入

おろしたサンマ半身をフライパンに並べる水野さんとそれを配信するカメラ

 食イベントが盛りだくさんの秋を迎えた。しかし、今年は一変。新型コロナウイルス感染予防の3密回避で多くが中止になった。魚に触れる貴重な機会の食イベントが減れば、次世代への魚食普及にも支障を来しかねない。現状を打開するために食イベントの主催団体はオンライン化を模索し、少なくない数が行われている。そのうちの一つ「オンラインさんま祭り2020」のスタジオに潜入。感触を探った。

サンマ題材にさばけるPJ

この日のために創作した落語を熱演する馬るこ師匠

 「オンラインさんま祭り2020」を生配信したのは、動画共有サービス「ユーチューブ」で視聴累計2260万回・登録者数17万9000人の突破を果たした「さばけるチャンネル」を開設・運用している、日本さばけるプロジェクト実行委員会(実行委員長・服部幸應学校法人服部学園理事長)。「魚(とと)の日」の10月10日、午後4時からオンライン会議ツールの「Zoom」で配信するイベントを企画した。

 時間までに東京・南青山のスタジオに入ったのは、服部実行委員長、噺(はなし)家の鈴々舎馬るこ師匠、タレントで管理栄養士の水野裕子さん、環境科学者で気象予報士の井出迫義和さんら。本州南海上の台風の影響で本降りの雨。屋外なら中止もやむなしの悪天候を尻目に、マウスシールドを装着しての生配信が行われた。

つかみは創作落語

 プログラムの第1部では馬るこ師匠が創作落語を披露。「百年後のサンマ」の演題で、海の温暖化を放置し資源管理に失敗した結果、メザシのように痩せたパサパサのサンマを使った定食が1人前20万円という、魚好きには悪夢のような未来を面白おかしく演じた。

 落語を糸口にした「オンラインさんまトーク」では、服部実行委員長、馬るこ師匠、水野さんに対し、井出迫さんが海洋温暖化によりサンマのように消失する魚についてレクチャー。にぎり寿司のサンプルを使いつつ、マグロのトロや赤身、アカ貝、ウニ、卵、エビ、ネギトロ、イクラ、ウナギイカ、タイ、ツナマヨのうち、30年後にはウニ、卵、タイしか残らない事実を学んでいた。

大名おろしでソテー

にぎり寿司のサンプルを手にして4人でトーク

 第2部は、水野さんが自ら考案したレシピ「さんまのトマトソースソテー」に沿って、レンズの向こうの視聴者とともに調理した。大名おろしにした丸魚をフライパンで焼いて取り出し、染み出た身脂ごとトマトソースで煮詰めて味を調え、皿に盛る。視聴者の作業ペースや、詰まりやすい工程を意識しつつ進行した。

 出来上がった料理はトークの参加者らで舌鼓。水野さんが「魚を捌くのは難しくない」と強調する一方、服部実行委員長は改めて日本周辺の海の豊かさと魚食の多様性を指摘したうえで「おいしいものを食べると感じる幸せを守るために、残すための努力を惜しまずやろう」と呼び掛けて、イベントを締めくくった。

別コラボの可能性

海のグルメを堪能する「海のごちそうウィーク」に連動したイベントとして行われた

 終了後「海洋環境問題を知ることができた」「食卓に並ぶ魚が食べられなくなるかもしれないことにびっくりした」などの感想が視聴者から寄せられ、主催者のメッセージが確かに届いたことをうかがわせた。

 同実行委員会にとっても生配信イベントは初。開催が中止となった「目黒のさんま祭り実行委員会」の後援を受けての実施だったが、主催者代表の日本財団海洋事業部海洋チームの日髙将博リーダーは「活動の方向性が合うのならば別のコラボもあり得る」などと、次のオンラインイベントの可能性に言及していた。

インパクトは弱め

 ただ、オンライン生配信は聴衆が見えず一方通行なだけに出演者も探り探りの様子。視聴も200人に届かずと告知に課題がみえ「来年はリアルなさんま祭りに参加したい」という反応も含まれるなど、情報に手触り感が足りないために印象深い体験となるにはインパクトが弱いようだった。

 感想を追った限りはしっかりと主催者側の意図する内容が伝わっていたし、天候に左右されずに全国どこでもネットを経由して見られるなど、距離や場所に縛られない強みはある。視聴者側にもっと臨場感を与える仕掛けを編み出すか、リアルイベントと併用しての補助的利用が最適解かと感じられた2時間だった。

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