Vol.149  海業振興にBBQの提案

手ぶらで来ても楽しめる「デジキュー浜のうたせ店」

 バーベキュー(BBQ)場の運営や、関連するウェブサービスを提供する(株)デジサーフは、今年4月に全国の漁協と連携した海業(うみぎょう)振興を宣言した。取り組みを通じBBQ場100か所のオープンを目標に掲げている。なぜ漁協と、海業でBBQなのか。高橋佳伸社長に話を聞くと、魚食を広げる格好の機会になることが分かった。

食べたい魚と映える海

「浜のうたせ」店内ではBBQ仕様のセットも販売している

 同社が漁協と連携した1号店は、和歌山・有田市で今年4月に始まった。JF有田箕島漁協が直営する新鮮市場「浜のうたせ」屋外スペースに、屋根付き全天候型BBQ場「デジキュー浜のうたせ店」をオープンさせた。
 2020年に箕島漁港で誕生した「浜のうたせ」は、新鮮な魚介類を一般客も購入できる市場として人気の施設だ。ただ、購入しても調理の際に大量の煙が出る焼き魚は、家庭で近隣住民に気を使う。漁港グルメを集めた施設内の食堂も人気だが、ピーク時間には行列ができる。提供までの時間を思い、諦めて帰る客の取りこぼしも課題だったという。
 「鮮度抜群の魚をその場で、おいしく楽しく食べたい」。この難題に、デジサーフのBBQ事業がピタリとはまった。
 テーブル席の中央は、炭台が埋め込まれるいろり型で、予約した時間には炭が熾(おこ)っている。利用代金は一時間550円(税込み)。席代には紙皿や箸、調味料などが含まれている。
 食材は「浜のうたせ」で購入して持ち込むため、「地元ならではの魚を選んで買う」という楽しみからBBQが始まる。売場では獲れたての魚介類が焼きやすいよう加工されており、手ぶらで来ても問題はなし。
 解放感あふれる施設内で、煙を出しながら魚介類を焼いて食べる行為は、ワクワク感に満ちあふれる。ゴミは施設内で処理でき、網を洗う後片付けも不要だ。高橋社長は「楽しみ方を制限しない。あくまでも場所貸し」と、システムを説明した。

未利用魚も目玉商品に

施設から見える漁船も、非日常を味わえるアイテムという

 デジサーフは公園や緑地、商業施設屋上や都心の遊休地などでBBQ場を運営している。女子会が開かれるほど手軽で、子供連れでもワイワイ騒ぎながら、おいしい食事を楽しめると評判だ。
 中でも海辺の施設に人気が高い。インスタ映えする景色のほか、われわれには当たり前に感じる、港を出入りする船の動きを眺める時間も、非日常の空間だという。必然的に「魚を食べたい」という欲望にかられる。
 「なんだ、そんなことなら」と、多くの漁協が感じるはずだ。海は間違いなくある。時間帯にもよるが漁船の出入りや乗り込む人たちの活気があり、販売店舗の有無は別にしても、船が戻れば新鮮な魚が手に入る。ただ、そこから集客につなげる一手が漁協にはない。
 同社はそれを、観光客が楽しめる施設運営にノウハウがあり、だからこそ有田市からこの話が来た時、高橋社長は「ぜひに」と回答したという。
 実際に「浜のうたせ」がデジサーフと組んだことで、店舗売り上げが伸び、販売する食材の回転率も上がった。調理は自分たちでやってくれる。加工品の在庫をもつ必要がない。従業員の仕事は炭の交換が主で、経験の有無は問題でなく、地域雇用の創出にもつながった。
 そのうえで「わが浜のいち押し」を柱に、不揃い・規格外・ロットの合わない魚介類も、限定品で販売しやすくなる。未利用魚でも味がよければ、「ここでしか食べられない魚」として価値を見いだせる。

当たり前が宝物

豊洲市場の近隣で都内最大級BBQ施設を併設したキラナガーデン豊洲。BBQの可能性は無限だ

 こうした背景から高橋社長は、BBQ事業で「漁業のポテンシャルを引き出せる」と意欲を示す。降雨や降雪、強風に耐える開閉可能な全天候型施設にも着手しており、「通年楽しめる仕組みが提案できる」という。
 漁港・漁村の活性に海業の推進が注目される一方で、「何から手を付けてよいのか」と悩む漁協も多いはず。ならば、BBQという切り口も選択肢の一つとしてほしい。同社に話を持ち掛けることから始めるのも、海業を進める手段といえる。

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