Vol.143  やっかい魚缶詰の全国大会

決勝大会で紹介された10缶。右手前が「境港天然本マグロほーるもんのうま煮」

「魚が獲れない」という話が取り上げられる一方で、「最近よく獲れるようになった」という魚もある。ただ、「水揚地に食べる文化がない」「サイズが小さく加工に手間がかかる」「臭いが強い」などの理由から、すべてが歓迎されているわけではない。地域で課題を抱える未利用魚(ローカルフィッシュ)を、高校生が缶詰にすることで一般の人も興味をもち、海への関心を高めてもらう全国大会が開かれた。

「食べて解決」高校生が提案

決勝大会に進出した10校の生徒と審査員ら

「LOCAL FISH CANグランプリ2022」は、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環で開催された。温暖化により分布域を広げ、資源量も増加傾向にあるシイラやサワラ、ブリといった魚種のほか、高値取引される身肉に対し未利用な部位を?課題魚?として各校が指定し、有効活用の道を探る。

大会は缶詰の味だけを競うものではない。地域との連携や発信力、課題魚との向き合い方も審査対象になる。未利用・低利用魚といわれる理由はさまざまだ。エントリーした55校は漁業者や水産加工業者に「なぜ利用されていないか」と取材し、どうしたらおいしくなるかを一緒に考えた。

課題解決に向けみえてきた糸口は、周囲の人々の興味をかき立てるプレゼンで発信し、漁獲・加工・販売に携わる人たちにもコンセプトを共有。大人たちをワクワクさせて巻き込み、商業化へ向けた可能性を高め、「食べて解決」を加速させることで、持続可能な開発目標(SDGs)を現実化させる。海の課題の?解決案?で終わらせない大会趣旨に、生徒らがしっかりと向き合った。

食とSDGsを考える

境港総合技術高校はマグロの内臓処理に苦戦していた日々を報告していた

予選を突破した10チームは、10月の決勝大会に臨んだ。最優秀賞を獲得したのは、クロマグロの胃袋をもつ煮込み風にした、鳥取・境港総合技術高校の「境港天然本マグロほーるもんのうま煮」だった。

境港は初夏に天然クロマグロの基地となる。鮮度劣化の速い内臓は出荷前に取り除かれ、ただし人の口には入らず飼料や肥料に利用される。同校食品・ビジネス科の寺本光孝さんと灘尾天水さんは、貴重な魚だからこそ「内臓も残さず、人が食べるべきではないか」と感じ、市場関係者の協力を得て内臓を入手した。

だが陸揚げ直後でも、未消化の魚が残る胃袋は「『本当に食べられるのか』と思うくらい臭いがきつい」と、寺本さんは顔をしかめる。地元料理人の指導も受けて臭みを消し、比較的扱いやすく、缶詰でも食感が残る胃袋に狙いを絞って、醤油ベースの牛もつ煮込み風に仕上げた。

審査員からは「魚と言われなければ分からない」など、完成度の高さに驚きの声が相次いだ。また、臭みを抜いて一次加工した内臓の汎用性にも関心が集まり、利用を促すことで地域特産につながる可能性も評価された。灘尾さんは「日本だけでなく、海外にも広まってほしい」と展望した。

将来の海も想定し提案

地域の海の課題と缶詰による解決策をプレゼンする生徒

決勝大会ではほかに、根魚の隠れ場所になる海藻を食べ尽くす、厄介者のブダイが味噌煮缶に。傷みが早いウルメイワシは、キムチ味のチャーハン缶になって登場した。

海水温の上昇で、ブリなど養殖魚の成長が鈍化する可能性が示唆される一方、暖かい水温に適応するカワハギの仲間のウスバハギは、養殖すれば成長が早い。甲殻類のシャコは資源を増やすことで砂や泥が掘り返され、底質改善のシンボルになり得る。将来の海洋変化も見越してこれら魚介類を課題魚に採用し、消費を促す提案型缶詰の存在も際立った。なお、団子にワラサ(ブリの幼魚)を混ぜ込んだ、みたらし団子風スイーツ缶詰という意欲作も登場した。

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