Vol.122  豊洲仲卸が移動販売に挑戦、亀和商店

移動販売の会計をする和田社長(右)。ビブスで各種決済対応をアピール

 新型コロナウイルスに伴う2度目の緊急事態宣言が22日に全面解除された。しかし、不要不急の外出自粛や飲食店への時短要請がいまだ残るなど、生鮮水産物流通の中核で業務用食材を強みとしてきた卸売市場への逆風は続いている。そんな中で昨春以降の苦境を打破しようと、東京・豊洲市場の一部仲卸で移動販売に挑戦する業者が出始めた。移動販売車の自社購入へと踏み切った亀和商店?(和田一彦社長)の取り組みに注目した。

ビジネスモデル確立狙う

和田社長が社員2人と販売。真新しい「都営北青山三丁目アパート」前で

 2019年に竣工したばかりの真新しい20階建て「都営北青山三丁目アパート」前のスペースに、3月中旬の金曜日正午の直前に亀和商店の移動販売車が滑り込むと、到着を待ちわびていた人々が周囲を取り囲んだ。

 のぼりや看板を立てたり、陳列棚に並べたりする暇もなく、保冷庫から出した端から用意した35種類の品々が売れていく。「ホタルイカは?」「時期のアサリはあるの?」などの質問が飛び交う。そんな中、両手いっぱいに商品を抱え込んだ買い物客の会計対応をしながら、従業員に指示を飛ばす和田社長がいた。

 好調な売れ行きに「どうもうちの魚はおいしいらしいですよ」と冗談交じりに話す。とはいえ、業務用高級鮮魚の一次加工品の納めほぼ一本だった亀和商店にとって、直近1年の業績は苦しかった。月間売上高は昨年4月には最大で平年の3割に落ち込んだ。「そんな時、知己の水産会社が消費者向けの移動販売で魚セット800箱を売り切った話を聞き、うちの番頭が乗り気になって」。

 決めてすぐ参入とはならず、400万円した移動販売車はオーダーしてから手元に来るのに5か月を要した。その間、地元の行政と相談しながら竣工間もない「都営北青山三丁目アパート」に当たりを付け、ポスティングネット販売から開始。昨年12月に満を持して移動販売車を投入した。

この日品揃えしたのは鮮魚が23点、冷凍が11点、弁当2点。ほぼ売り切れた

 品揃えは業務筋向け高級鮮魚をそのまま転用。販売形態はスーパー出身の社員に一任した。移動販売車の運用は和田社長一人で始めた。だが、評判になり常連客が付いたことでマンパワー不足となり、今では営業・事務関係なく数人の社員が常時関わっている。「接客が面白いのか、私が今まで参入を決めた新事業で最も熱心に関わってくれている。買い物客から直接反応が寄せられるのもよい。メインの仕事の提案力も上がった感じがする」と笑みをこぼす。

地元は不思議の縁で

 同社の挑戦を取り上げた1月のテレビを見て、豊洲市場のある地元区の江東区の枝川薬局オーナーから「近所の魚屋がやめてしまい困っている。こちらでも移動販売をしてくれないか。市場も応援したい」と直接、声が掛かった。北青山の次に向かった「都営枝川一丁目アパート」前の枝川薬局裏駐車場では、今年2月から販売を開始した。オーナーの友人であり地元の佃煮専門店?佃宝社長で83歳の水谷秀子さんも商品を提供する一方で売り子としてヘルプに入り、北青山とはまた違った和気あいあいとした賑わいをみせる。「仲卸一本だったら出会いはなかった」と和田社長は不思議の縁を感じている。

枝川薬局裏でも行われた販売の様子。オーナーの支援で利用者が急拡大中

 現在の販売場所は3か所にとどまるが、3月は移動販売だけで月商1000万円に届きそうな勢い。ただ、2度目の緊急事態宣言の影響から会社全体は平年の6割がやっとと、まだ売り上げ減を補填しきれていない。「4月からは南青山の『南青ハイツ』を販売場所に加えるが、移動販売で先行する仲卸は週に12度の販売をしていると聞く。台数・場所を増やし、仲卸の移動販売のビジネスモデルを確立したい。すでに2台目の移動販売車発注も済ませている」と規模拡大に意欲を燃やす。

 昨年6月の改正市場法施行と都の業務条例(規程)施行を契機に、場内の市場業者による小売行為が自由化された。それを利用し、新型コロナウイルスがもたらした新たなライフスタイルに眠るビジネスチャンスをつかみ取るための豊洲仲卸の挑戦は続く。

▲ページトップへ

魚食応援バナー02
魚をもっと知ろう!ととけん問題にチャレンジ
BACK NUMBER