Vol.147  サーモンはなぜ日本人に愛されるのか

活動の一つ「出張サーモン解体ショー」(※現在はコロナ対応のため休止中)

 マルハニチロ(株)が3月に公表した「回転寿司に関する消費者意識調査」によると、回転寿司の人気ネタ1位はサーモンで、12年連続だった。「江戸前のにぎり1人前」にも、当たり前にサーモンが入っている現在。日本人のサーモン好きは疑いようのない事実だが、その理由はなぜか。全日本サーモン協会の中尾晋代表の考えを聞いた。

おいしく、育てやすく、オレンジ色!?

全日本サーモン協会・中尾晋代表(サーモン中尾)

〝サーモン中尾〟の名で広報活動に努める中尾代表によると、特に若い世代で「魚はサーモンしか食べない」という人がいるという。(株)アイ・エヌ・ジーが調査した2021年夏の高校生トレンドランキング「今流行っている食べ物」では、なんと7位がサーモンだった。
 ちなみに同調査で上位は、1位地球グミ、2位モッパンセット、3位カヌレとなっている。こうしたはやり物の中にあって、堂々とサーモンがランクインしていたのだ。商品名や料理名でなく、素材名であることも意表を突く。もはや魚という感覚ではないのだろう。
 では、なぜサーモンが愛されるのか。中尾代表は理由の一つに「オレンジ色をベースに、白のストライプも入るカラーリング」と答えた。餌となる甲殻類がもつアスタキサンチンの働きで、サケ科魚類の特徴だ。確かに天然の生物では、ほかに見当たらない。「生き物の奇跡」と表現する。

 実際に中尾代表が主催したサーモンのイベントでは、ある女子高生の参加理由が「だってオレンジでテンション上がるじゃん」だったそうだ。
 ただしサーモンは「色の主張が強いにもかかわらず、クセの少ない魚だ」とも分析する。「サーモンの風味が強い」という味の評価を、あまり聞かないのはそのためか。魚臭さや魚特有の香りも少ない。シチューにサーモンは合うが、「サバだって」とはならない理由だ。
 やはり色の違いが大きいのか――。「量販店でもパッと見ただけでサーモンだと分かる」「アジやサバがオレンジ色なら、今より何倍も売れているだろう」「SNS(交流サイト)映えする食品。時代がやっとサーモンに追い付いてきた」と、中尾代表は畳みかける。

魚の属性に収まらない

 そのうえでサーモンは、生食はもちろん煮ても焼いてもスモークでもおいしい万能食材だ。「脂が乗っているから、若い人が好きなのだろう」という見方もあるが、あえて少ない脂質で差別化するご当地サーモンもあり、年配者にも「上品な魚」として好まれている。もともと日本には塩ザケなど食文化の素地があり、そのうえで選択肢が増えてきたことも追い風だ。
 加えて増肉係数(体重を1キロ増やすのに必要な餌量)は、アトランティックサーモンが1・2という、驚異的な体質も魅力だ。オレンジ色でどんな食べ方でもおいしく、養殖もしやすい。中尾代表が「人間に愛されるために生まれてきた魚」と言うのも、無理はない。

伸びしろもある

 一方で魚好きを自称する人から、「好きな魚の1位がサーモン」と聞いた記憶がない。「サーモンがうまい店」を掲げる高級寿司屋もない。万人に受け入れられるクセのなさが、一つの答えかもしれない。
 とはいえ現在の日本は大手企業が大規模な陸上循環養殖に着手し、ご当地サーモンも沖縄を除く全国で生産されている。海水だけでなく淡水でも育てられ、どの種苗(魚種)でも「サーモン」と呼ぶことにより、世間に浸透している気がする。
 そのため中尾代表は「サーモンの食べ比べができる時代になった」という。調理法やトッピングの違いではない。産地や魚種、旬の違いを楽しむ寿司屋や料理店の可能性だ。「こうした伸びしろを世に伝えるのが、協会の役割だ」と胸を張る。
 なお、サーモン中尾(中尾晋)氏が代表を務める全日本サーモン協会は間もなく、法人化を予定している。消費拡大に努める傍ら、出身地である滋賀・愛荘町では、サーモンを使った街づくりにも取り組んでいる。

<中尾代表のお勧め料理レシピ>カンジャン漬けサーモン

  • 【材料】
  • ニンニク 2片(スライス)
  • ショウガ 1片(スライス)
  • ネギ 少々
  • 鷹の爪 3~4本
  • 醤油 70cc
  • 酒 70cc
  • みりん 大さじ3杯
  • 水 大さじ3杯
  • 砂糖 小さじ1杯
  • 刺身用サーモン(冷凍〈解凍〉物 でも漬けにすることで味が染みやすく、ねっとり感が出る)
  1. 【作り方】
  2. ①すべての調味料を鍋に入れて火にかけ、全体が沸いたら火を止めてそのまま冷ます。
  3. ②熱が取れたら刺身用サーモンを入れ、ひと晩寝かせたら完成。

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