Vol.132  ゲノム編集魚で広がる可能性

可食部が1・2倍に増えた「22世紀鯛」

 昨年、ゲノム編集により可食部が従来より1.2倍に増えたマダイ「22世紀鯛」、成長スピードが1.9倍になったトラフグ「22世紀トラフグ」の流通が始まり、注目を集めた。食卓にはまだなじみがないかもしれないが、すでに一部がいつでも・誰でも購入できるようになっているのはご存じだろうか。日本で初めてゲノム編集した魚の販売を開始したリージョナルフィッシュ(株)の梅川忠典最高経営責任者(CEO)に今までの取り組みや今後の展望について聞いた。

これまでの歩みについて

梅川CEO

 世界的に近い将来のタンパク質不足が懸念されている中で、ゲノム編集技術で効率的な魚を生産して、この問題を解決していくことを目指して2019年4月に会社を立ち上げました。京都大学(湊長博総長)のゲノム編集、近畿大学(細井美彦学長)の養殖技術を核に、日本を代表する大企業など約60団体とともにオープンイノベーションで活動しています。20年4月にはゲノム編集した食品の流通に向けた届け出の準備を始め、21年9月にマダイ、10月にはトラフグで提出を完了させました。同時にわれわれの技術や思いに理解していただける方に向けて、クラウドファンディングによる応援販売を行いました。反響は予想よりも大きく、直近では21年12月にいつでも購入できるよう、電子商取引(EC)サイトをオープンさせたところです。ネット販売はたくさんの広告費がかかるといわれていますが、約1か月の間に広告なしで数百食を販売できて手応えを感じています。

ゲノム編集した魚の未来の立ち位置は

 今は天然魚・養殖魚と比較されることが多いですが、戦うべきフィールドは代替タンパクのマーケットだと考えています。タンパク質不足に備えるべく植物肉や細胞培養肉、昆虫食などが登場しています。選択肢の一つとして効率よく生産できるゲノム編集した魚が候補として挙がるよう尽力していきたいです。

魚食にはどう影響するか

サステイナブルな「22世紀トラフグ」

 開発した「22世紀トラフグ」を例にすると、従来よりも餌の量を約4割削減できることから、エコでサステイナブルといえます。生産コストを抑えれば手が遠のいていた消費者が振り向くほか、環境を重視する新たな市場にも対応できる可能性もあります。当社は誕生した魚が各地域で新たな地魚となり、日本の水産業の諸課題を解決していく未来を願って社名を「リージョナルフィッシュ」と名付けました。従来の漁業・養殖業と競合しない違うカテゴリーの需要を開拓していくことで、新しい魚食への貢献ができると考えています。

現状の課題は

 農畜産物は人間の都合のよい個体を掛け合わせて新しい品種を作る「選抜育種」を1・2万年くらい前から行ってきた一方で、魚は昔から変わらないものを口にしてきました。いきなりゲノム編集技術で作った品種として紹介すれば、一部で抵抗感を感じてしまうのは仕方なく思います。安全性は農林水産省、厚生労働省への届け出の段階でしっかりと証明してきましたが、やはり育種の歴史と技術の有用性・安全性を正しく伝えていく草の根の活動が必要に感じています。

今後の展望について

ECサイトで購入した商品。加工済みですぐ食べられる

 水産は育種の歴史は浅いため、ゲノム編集によって広がる可能性はほかの食品よりも大きいです。われわれは世間に求められる魚の社会実装に向けて、現在はおよそ20魚種を同時並行で研究しています。今後は漁業の現場の声も反映し、陸上養殖だけでなく、海面養殖をするための届け出の準備も始めようとしています。10年後くらいにはゲノム編集した魚の生産が浸透し、各地で育てていただける環境が整っていればうれしいですね。そのためには正しい知識の普及と販売の拡大が必要です。まずはECサイトを基軸としながら、コンセプトや技術を説明しながら販売できる場所・店舗があれば売場での展開にも挑戦したいですし、自分たちで店舗を構えるのも面白いかもしれません。ゲノム編集したという事実が付加価値として認識されるよう、さまざまな手段で理解の輪を広げていきたいです。

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