Vol.160  「魚がうまそう!」 SNSで産地を伝える

協議会のインスタ。フェイスブックとも連動している

 神奈川・小田原の魚を知って、買って、食べてもらおうと、「小田原の魚ブランド化・消費拡大協議会」のインスタグラムでは、家庭で作る魚料理の視点ももちながら、小田原の水産情報を発信している。

〝中の人〟は小田原市水産海浜課の職員だ。
行政の交流サイト(SNS)にありがちな四角四面でなく、魚を魅力的に見せている。秘訣(けつ)を聞いた。

小田原の魚ブランド化・消費拡大協議会

刺身の盛り合わせやにぎり寿司など実においしそうに造り、魅せる

 今春は相模湾にブリが大量来遊し、小田原漁港への水揚げが一般ニュースにも挙がった。さらに今年はイシダイ、そして季節のマアジなどが続く。
メジャーな魚は旬を逃さず深掘りし、未利用魚も分け隔てなく味を伝え、ウツボやアンコウも自宅の台所で解体する。

 小田原市水産海浜課水産振興係の山田宙さんは、自身が投稿する協議会のインスタを「もはや『私が何を食べたか』の記録だ」と話すが、多くのフォロワーに「魚を食べたい」と思わせる魅力がある。写真からは「おいしそう」と感じ、その合間に挟む動画は、字幕や背景音、再生速度が小気味よい。気軽に楽しめ、時にクスっと笑える。
 
 
 
 

ウツボやアンコウは早送り再生の動画で、捌き方を共有した

 実は撮影も編集も、自身のスマートフォンで完結させているという。動画を盛り上げる音楽や子供の歓声など、活用する音源のテンプレートはインターネット上のフリー素材で入手し、編集は時に湯船に漬かりつつ手早く行う。魚がきれいに見えるのは「スマホを変えたから」と屈託がない。
 

 魚の写真だけでなく、自身の創作料理を頻繁に投稿する。「アジのゴマだれ和え」「ホウボウのアクアパッツァ」といった味をイメージしやすいものから、「ネンブツダイのラーメン」「ギンザメのしゃぶしゃぶ」「カゴカキダイの茶碗蒸し」など、フォロワーの想像力をかき立てる料理も少なくない。おいしくなかった時も「駄目でした」で投稿する。

 「未利用魚は再現性がない」と懸念されそうだが、小田原市の地域密着型スーパーでは「朝まで泳いでいた新鮮な魚」を売りに、定置網に入るマイナー魚も積極的に販売している。〝小田原で手に入る魚〟という緩い縛りから外れていない。

 そのためインスタは、市内の人を想定して「小田原においしい魚がある」「市内で買える」「こう食べたらおいしい」という情報発信を意識している。ただその先に、小田原以外でも「『おいしいから売れる』が広まれば」との期待を込める。

舞台は自宅 家族も協力

水産市場の朝。見慣れない魚があると撮影して魚種を同定する山田さん

 当地は魚屋や仲買人さんも積極的にSNSを活用しているが、写真は市場に並ぶ状態または丸魚が大半だ。「その情報は魚屋さんに任せる。その先の『捌いて食べてどうだった』は、消費者側でないとできない」と、山田さんは狙いを語る。

 「小田原の魚ブランド化・消費拡大協議会」は、小田原市内の漁業者、市場、水産加工業者、教育機関、給食、商業関係者、行政などで2013年に設立された。事務局を水産海浜課が務める。
新型コロナウイルス禍で頻繁に実施していた対面の料理教室ができなくなり、21年度に山田さんが同課へ異動したタイミングで「若い人に届く情報発信を」と、写真中心のインスタに着手した。

 ほぼ、自宅のキッチンが撮影の舞台だが、家族の反応はどうか。
「子供より魚の写真が多い」との指摘はあるようだが、子供たちが撮影を認識し「食べていい?」と確認するなど、家族公認で協力的という。
ただし、脱走した活ウツボが床をはっていた時は「さすがに怒られた」そうだ。

シェアしたくなる写真スポットを活用していくこともSNSに有効(写真はイメージ)

SNS他力本願の勧め

 交流サイト(SNS)による情報発信は運用する人の熱意とセンスに依存しがちだ。ただ、条件を満たせる人材は多くない。そこでIT企業のLINEヤフー(株)の川邊健太郎会長は、SNSでは「他力本願のプロモーションを」と水産関係者に提案している。

 千葉・房総で漁師としても活動する川邊会長。海業振興策で「陸(おか)っぱり釣り(岸釣り)」愛好者を漁港に呼ぶことを提案する中、「シェアしたくなる写真スポットを用意し漁港名を入れておけば、利用者が勝手に拡散してくれる」と説く。

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