カツオにマダイ、ブリ、カキ、ヒオウギ貝、ヒジキ、アコヤ貝?。愛媛県の南端・愛南町の子供たちは、町に揚がる主要水産物を、そらで言える。当たり前のことかと思いきや、数年前にすべてを知る子は、それほど多くなかったそうだ。きっかけは「ぎょしょく普及戦隊 愛南ぎょレンジャー」にあった。
愛南町は南宇和郡の4町1村が合併し、平成16年に発足した。だが合併直後、町民は自分たちが住む地域の産業は理解しても、かつての隣町だった旧〇〇町のことはあまり知らなかった。
町の基幹産業は農林水産業で、特に漁業はカツオ一本釣りやまき網をはじめとする漁船漁業に、マダイやブリ類、真珠、カキ、ヒジキなどの海面養殖業が盛んだ。
「一つになった『わが町』の特産を、余すことなく知ってほしい」。愛南町水産課の兵頭重徳係長(現・課長補佐)は、自身がゴレンジャー世代だったこともあり、町を代表する5つの海産物をモチーフにしたヒーローづくりを始めた。
ぎょレンジャーは「カツオブルー」「タイレッド」「ブリグリーン」「カキアイボリー」「ヒオウギパープル」の5人組で22年に誕生した。魚介が揚がる地域の小学生がデザインし、町内の南宇和高校美術部の協力で、かわいらしくキャラクター化されている。
衣装には対象魚介で特徴的な魚の模様やヒレなどの形に、イケス網や養殖用の縄、フロートも採用された。カキアイボリーは山の栄養分が河川を通じて海へ注ぎ込まれる過程も表現され、「だからおいしいカキになる」と、生産の背景も伝える。
子供人気は絶大で、祭りやイベントでは小学生がぎょレンジャーの衣装を着て登場する。5つの特産品がセットで町民に知れ渡り、主要水産物の周知に役立った。
ぎょレンジャーは町の「ぎょしょく教育推進事業」でも活躍している。親しみやすいキャラクターを登場させることで、授業の雰囲気も和むという。
ある日、子供たちから「ぎょレンジャーは誰と戦っているの」と質問が出た。町はこの疑問に、悪役の「ぎょレンジャーダーク」の3人組を登場させて、漁業・養殖に被害を与える台風や赤潮、漂流ゴミの問題を分かりやすく伝えている。
キャラクターにちなんだ料理もある。タイレッドをデザインした船越小学校の児童らが、マダイのフライを甘辛く炊いて卵でとじた「タイレッ丼」を考案した。マダイは軟らかく、大葉を巻いたことで、カツ丼よりもあっさりしている。
5人だったぎょレンジャーは、地産の海産物を題材にして、次々とメンバーを増やしている。今年3月には、悪役3人を合わせ11人目となる「サツキマスシルバー」がデビュー。町期待の新養殖魚サツキマスのPRに、活躍が期待される。
兵頭課長補佐はぎょレンジャーの効果について「子供たちが地元の水産物を等しく知れた」と、たたえる。同町はイサキの一本釣りやクロマグロ養殖ほか、スマ養殖にも力を入れている。「メンバーが増えるのは町に話題の魚がある証拠」とし、新キャラのさらなる投入も示唆した。現在は愛南町だけのぎょレンジャーだが、「ほかの水産都市でも、地域に密着したぎょレンジャーを」と広がりに期待する。