3月11日に発生した東日本大震災、そして福島第一原発で起きた大事故は、水産業界を未曾有の混乱へと陥れた。その影響は今なお続いている。ただ今後、被災地の早期復興を図るうえで、東日本の沿岸都市の基幹産業である水産業の再建は絶対に欠かせない。そのために水産物消費の回復・発展は、業界挙げて取り組むべき最重要課題だ。今月の魚食特集では、鮮魚専門店の売り上げナンバーワンの北辰水産・高山信行代表取締役専務にインタビュー。東日本震災後の動向と販売戦略、今後の水産物消費の拡大に向けた提言を聞いた。
◇震災で販売動向はどのように変わりましたか。
◆高山専務/震災後しばらくは、すぐ食べられるか、逆に保存が利く商材が売れました。コンブ巻きやシラス干、干物であったり、お造りやテイクアウトの寿司であったりです。刺身サクは苦戦しました。ただそれも、金額で前年比1割減程度で、最初の1週間だけでした。
◇では、今(4月11日時点)はどうでしょうか。
◆高山専務/4月になってから数字が戻り、現在は全店で昨年対比を超えています。テイクアウトは2ケタ以上伸びていて、数字的には良好ですね。売れ筋は焼き魚、煮魚用のサバ、アジ、カレイ類で、どちらかといえば値段の手ごろな大衆魚です。エビ、カニなどの甲殻類は今までにない不振です。これは全国的な自粛ムードで、仕入れに訪れる業務筋のお客さまの来店減が大きく影響しているのではないでしょうか。いき過ぎた自粛は見直すべきだと思います。
◇放射能の風評被害にはどう対処していますか。
◆高山専務/風評被害関係なしに売れと指示しています。当社はデパ地下のテナントが主体ですので、仮にデパート側から販売中止の要請が寄せられるようなら、私が直接行って説明をすると現場担当者に伝えています。店頭では、大体のお客さまが特定産地が大丈夫なのかを尋ねてきます。しかし、荷主さまが自主的に出している産地証明書や行政機関が行う検査結果を基にちゃんと説明をすれば、皆さん納得してくださいます。時には疑問をぶつけるお客さまに「何言ってるのよ、こんな大変な時に。(特定産地のものを買わないと)食べるものがなくなるわよ」と横から応援してくださるお客さまもいました。
◇こういう非常時であっても専門店の対面販売が生きている感じですね。
◆高山専務/魚はほかの食品と違っておいしい魅せ方が重要で、魚について専門的な知識がないとできないものです。現在の量販店・スーパーの皆さまは、とにかく生魚を置かな過ぎます。ロスを恐れてコストばかりが先に立ち、値段ありきになっています。もっと専門的な人を置くべきです。お造りやテイクアウトの寿司は、パートさんでもマニュアル通りやればできるかもしれません。しかし、感覚的なものはプロでないとできません。
◇三陸の被災地に今できることは何でしょうか。
◆高山専務/私たちも被災地に約50社の荷主を抱えています。救援物資や義援金活動は継続して行っていますが、それを除けば、売場を全国に展開する当社ができるのは水産物の販売だけです。震災以後、産地への思いはますます強くなっています。三陸の荷主の皆さんの仕事がこれで終わったら、当社の責任であり、私の責任であると思います。生魚販売の日本一の当社が、三陸の魚を今後も売り続けていきます。