カナダ大使館で先月、カナダBC州の太平洋産カズノコをもっと身近に食べてもらおうと、試食会が開かれた。商品価値が低い割には高く、現場で使いづらいと敬遠される小小カズノコの活用の幅を広げようと、年中行事の縁起料理なども披露され、正月商材カズノコは通年化へ向けた消費拡大を模索している。このように、一つの商材を、従来の枠を超えて広く消費促進を図るには何が必要なのか。今月は、戦後最大の発明といわれたあの商品から大ヒットへのヒントを探る。
水産業界で戦後最大のヒットといえば、カニ風味カマボコ(カニカマ)だろう。近年、ねり製品の消費が伸び悩む中でも、マーケットは拡大の一途だ。
カニカマの脅威の競争力の秘密はどこにあるのか。日本で初めてカニカマを開発したスギヨ(石川県七尾市)の杉野哲也社長は、昭和47年の誕生後に爆発的ヒットにつながった理由に、「高級食材の『カニ』が、カニカマによって安価かつ安定した食感で楽しめるようになったこと」を挙げる。カニは当時も今も、容易に手の届かない“高嶺(ね)の花”。それが、カニの脚肉の見た目や食感をとことん突き詰めたカニカマが世に出て、一気に身近になった。
カニカマは空白地帯だった「値頃感あるカニ」を望む需要に合い、飛躍的に売り上げを伸ばした。
ただ、それだけで今日の繁栄はない。食べやすさもさることながら、カニカマにまた重要だったのは「料理などに使える『素材』だった点にある」(杉野社長)。
他社メーカーも「生食ができ、チャーハンに加えるなど料理に手軽に使え、バリエーションが利く」(新潟のねりメーカー)と、応用力の高さを評価する。さまざまな食の場面で活躍し、カニカマは不動の地位を築いた。
冒頭に挙げた小小サイズのカズノコも、カニカマが歩んできたヒットの入り口には立っているかもしれない。小小カズノコは、イミテーションではなく「本物」だ。特徴的な歯応えなど「素材」としての優れた応用力がある。
非日常のカズノコが小小サイズなら、割安で比較的手軽に普段の料理に使えることに注目したい。
カズノコに限らず、「素材」の潜在能力をもちながら、眠ったままのものは多い。常識にとらわれず、いま一度、身の回りを見つめ直せば、新たな魚食の掘り起こしにつながるかもしれない。
スギヨの杉野社長は、カニカマになお発展の余地があると話す。「タラバ、ズワイ、毛ガニ。まだたくさんの種類がある。それこそ、カニの数だけ可能性を秘めている。それぞれのカニの長所を再現し、付加価値を高め販売できる」。
現在の主力商品の一つ「香り箱」も、地元・能登に揚がるズワイガニのメス・香箱(こうばこ)ガニの、キメ細かな繊維で繊細な味の脚肉を再現した商品だ。最近はテレビ番組で紹介される機会も増え、ちょっとしたブームになっている。
大手商社・極洋の「オーシャンキング」も、バリエーションを増やしている。今年、本物のカニ肉が10%入った「オーシャンキング マリンファイバー」を新発売した。保水力を向上させ、使用する色素も天然のものを使用するなどこだわった。他にも天ぷら用、寿司用、カニ肉の脚肉状と爪肉状のものをミックスした商品など、用途別に進化を遂げている。
素地の改良に、さらなる用途の追求。まだカニカマにできることはたくさんある。