Vol.87  日本初、池袋に「くさやバー」

VIPルームで焼いた熱々「春飛魚くさや」と「くさやアヒージョ」でちょっと一杯

VIPルームで焼いた熱々「春飛魚くさや」と「くさやアヒージョ」でちょっと一杯

 都内のJR池袋駅から歩いて5分の駅近に昨年暮れ、伊豆七島の特産「くさや」をメインにした日本初のバー「AIGAE KUSAYA BAR」がオープンした。八丈島からの進出を果たした、オーナーの加藤幸さん(藍ヶ江水産社長)は「一般消費者とくさやとの間にある“敷居”を取り払いたい」と思いを語る。

臭いの“敷居”取り払う

バーの定番メニューを紹介するオーナーの加藤さん

バーの定番メニューを紹介するオーナーの加藤さん

 41歳の加藤さんは八丈島に魅せられ若くして当地に移住し、現地の飲食店で働きつつ生計を立ててきた。今から10年前、島内でも古株のくさや業者が廃業を決めたと聞きつけ、数百年の歴史があるくさや液ごと買い取り、日本の伝統的発酵食の世界に飛び込んだ。

 くさやには「臭い」のマイナスイメージが先に立つ。しかし、加藤さんは「脂の薄い生の地物を使うので、うま味が強くて臭いもあまり目立たないのが八丈産くさやの特徴」と解説。島の生産量の減少傾向が続く中で、気軽につまめる「くさやチーズ」(チーズの中にムロアジのくさやを約40%練り込んだ商品)を開発したのを足掛かりに、約5年かけて首都圏エリアの酒屋200軒にくさやの新たな販路を広げてきた。「臭いのマイナスイメージさえ克服ができればファンはつかめる」。

 ただ「全国には何万件と酒屋があるのに、普及のペースが遅すぎる」と悩んだ加藤さんは、居酒屋・バーの定番メニューとなり得る可能性を実証するために、くさやバーの構想を実現に移した。

新販路開拓の突破口となった「くさやチーズ」(中央)

新販路開拓の突破口となった「くさやチーズ」(中央)

 池袋の店内にはカウンター席のほか、焼きたてを味わうための調理器具を備えた個室「VIPルーム」を整えた。焼く時に強まる臭いが店内に広がるのを遮断するが、もちろんあえて内部で臭いを味わうことも可能だ。

 通常品やくさやチーズ以外にも、くさやアヒージョ、くさやピザ、くさや焼きおにぎり茶漬けなどを提供。濃厚なうま味とクセになる味がビールや洋酒にピタリとハマる。

 加藤さんはバー経営にも本気で「年内に新橋へ2号店を出し、今度は東京の東側のお客さんもつかみたい」と意気込む。八丈産を主力としながらも「くさやの魅力は業者によっても異なる味の違い。臭いの“敷居”を取り払ったお客さまは、さまざまな種類を楽しんでほしい」と、くさや全体の市場拡大を願っている。

幻のくさや八丈にあり、頭からしっぽまでOK

ごく短期間しか生産不能な幻のくさや

ごく短期間しか生産不能な幻のくさや

 伊豆七島のくさやの代表的な生産地である八丈島には「幻のくさや」と呼ばれる逸品がある。その正体は、8月初めから旧盆までの、ごく短い間に獲れるムロアジを原料として生産したくさやだ。

 ムロアジ漁解禁すぐの8月上旬は人間なら小学生に相当する小ムロが獲れる。八丈島水産加工業協同組合の長田隆弘副組合長(ヤマサ水産長田商店社長)によると、特殊な処理をしていないのに「頭からしっぽまでバクバク食べられる」のだという。お勧めの焼き加減は半生。あなたは入手できるか?

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