魚の消費量が減少する理由に、日本人の家族形態やライフスタイルの変化が挙げられる。確かに、単身世帯や調理時間を取りづらい平日に、魚をイチから調理するのは面倒かもしれない。だからこそ、手軽な個食スタイルへ販売形態が移りつつある。果たして単身世帯のサラリーマンが平日、空腹を満たすだけでなく、手軽に楽しく魚を摂ることはできるのか。実証しながら、「おひとりさま魚食戦線」の可能性を探ってみた。
日本人の理想とする朝食といえば、「旅館の朝ごはん」になるだろう。ご飯と味噌汁、焼き魚、納豆、卵焼き、漬け物など。だが、忙しい平日の朝、すべてを1人前で用意するのは荷が重い。
味噌汁ならば、フリーズドライの具と生味噌を用いたインスタント品が侮れない。種類も豊富で、ベーシックなワカメやシジミのほか、最近では殻つきアサリの入ったカップ味噌汁も出た。
焼き魚や煮魚には、電子レンジや湯煎で温めるだけ、あるいはそのまま食べられる加熱調理済み加工品が増えている。松岡水産のギンザケの塩焼きや、サバの味噌煮などは、取り扱いを始めているコンビニもある。
タイマーをセットすれば、朝食にも炊きたてご飯を食べられる。ここに、伝統食であるアサリの時雨煮を加えて一緒に炊けば、白飯よりもちょっと得した気分になれるだろう。
仕事が立て込む昼は、ついついコンビニ食に頼りがちになる。弁当の制約から、焼く・煮る・揚げるに調理は限定されがちだが、ローソンの「海鮮三色丼」のように、生魚を用いた弁当も登場。海藻サラダと合わせると、見た目にも華やかで栄養面もバッチリ。
きょう1日の自分をねぎらうため、晩酌のひとつもしたい。手間ひまを極力避け、しかし、“気分は贅沢”を味わうには、缶詰が最適。多種多様で店ごとに品揃えが違い、選べる楽しさに心も弾む。帰宅途中の駅ナカ店舗で、マルハニチロの限定生産のサンマ蒲焼缶詰を買ってみた。
家近くのコンビニで購入した夕刊紙と、まとめ買いした発泡酒を1缶取り出し、テレビの前にセット。大事に食べている乾物の軟らかタイプの鮭とば数本を追加し、おかず用に買ったシジミの佃煮を冷蔵庫から出す。
ともに日保ちするから、食べ残しが気にならない。いい気分で杯を重ね、2本、3本。ついつい飲みすぎる。次からもう少しお酒を控えようと反省しながら、「明日の朝の味噌汁はシジミじゃなく、ワカメにしようか」と眠い頭で考えて。
自宅に戻ると1人暮らしの部屋は寒い。鍋物がおいしいと開き直るか。今の時期ならば、量販店の水産物コーナーには、アルミニウム容器に盛られた1人前の海鮮鍋が必ずある。
多少の物足りなさは、ねり物で補おう。小ロットでの販売品目が多く、鍋物への「ちょい足し」にはもってこいだ。
少人数世帯の増加や家庭内調理時間の減少に合わせ、販売形態も商品の少量パック化やバイキング形式など変化を遂げている。
「個食=割高、寂しい」イメージは根強いが、アイテムの増加と調理離れから、1人暮らしでは「むしろ安上がり」「少量多品目のメニューがつくりやすい」といった声も。ターゲットは単身世帯だけではない。
複数人家族世帯でも「シェアできる楽しさ」から、少量パック商材が選ばれるケースもあるようだ。
平日の家庭で魚の調理は確かに難しい。だからこそ、水産物は仕向け方次第で、豪華・お得と感じやすい商材でもある。おひとりさま商戦は、まだまだ伸びしろを残している分野ではないか。