千葉・房総半島の最南端に位置する南房総市は平成23年度から、学校給食の主食にパンや麺をやめ、米飯・和食中心の献立に変わった。
加えて内容は、子供たちの嗜(し)好に合わせるのでなく、「大人が子供に食べさせたいもの」を提供しており、魚の登場回数も増えたという。全国各地で挙がる「学校給食に魚を」の声はしかし、実現に思うようにいかないと聞く。
ならば完全米飯給食の南房総市で、魚はどう調理し提供されているのか。紹介したい。
朝夷学校給食センターで管理栄養士を務める小安亜季さんは、「焼き魚ならば、『火が通りさえすればよい』ではない」と話す。香ばしくおいしそうな焼き色がつけば、食欲は確実に増す。そのため、中心温度を測りながら、一方でおいしそうな見た目も意識する。
コメ中心の献立は、だしも重要だ。化学調味料は使わない。カツオ節でとった香りあるだしは、時に仕上げで削り粉を散らし、風味を加える。油脂や塩気が少なくても物足りなさを感じない。
手間はかかるが「面倒だから、では何も変わらない」。調理員へその意図を伝えると、「子供たちのためなら」と、快諾してくれたそうだ。
学校給食実施基準の一部改正により、昨年4月からカルシウム摂取に新たな考えが盛り込まれている。牛乳は一定量のため、基準値達成は魚に頼るところが大きい。小骨が気にならないフライや蒲焼(一度揚げて甘辛タレを絡める)など重宝するそうだ。
「主食のパンに揚げ物を合わせては、簡単に脂質基準を超える」ため、ご飯給食になってから、出しやすくなった魚メニューもあるとか。
子供は食経験が未熟で、未食のものは拒否してしまう。魚を食べない家庭の子供は、ここでつまずく恐れがある。ただ、だれかが「おいしい」と発し伝われば、集団心理で食べてしまうこともあり、魚を苦手とする風潮はないという。リクエストには、魚料理が随分と挙がるそうだ。
ただし、こうした手間にも限度がある。
同センターは幼稚園から小・中学校まで、計1260人分に対応し、配送時間の関係から午前10時30分には仕上がってなければならない。持ち時間は2時間30分程度。センターで丸魚加工や、漬け込みなど前日からの調理はできない。
調理施設も新旧あり、市内4か所の給食センターで異なる。「事前に下味がついている原料はないか」「切身が大きさ別に3規格あれば?」。
どうしたらもっと魚が使いやすくなるかを小安さんにお聞きした答えだが、全国に共通する願望でもあるはず。学校給食へ向けた水産加工分野はまだ余力を残しているのでは。
日常の調理に割く時間が減ったことなどから、「簡単な料理」が家庭のご飯になりつつある。親が食べないものを、子供が好きになることは難しい。食する機会を失えば、子供たちの魚食は、限られた選択肢でしかあり得なくなる。
こうした悪循環を断ち切り、学校給食から食生活の改善を提案しようと、南房総市教育委員会が声を発した。
地域を学ぶ場としての位置府けも強く、前浜の魚や海藻ほか、クジラ料理が出るのは、近海捕鯨基地・和田浦を有する地ならでは。
完全ご飯給食により材料費は上がったが、増加分は市が負担しており、保護者が支払う額に変わりはないという。
「骨なし魚が日常になれば、骨のある魚で事故を起こすかもしれません。逆に普段から骨のある魚を食べていれば、その心配はありません。
揚げて骨ごと、加圧調理も採用しながら、基本は“骨あり”で食べてもらう工夫を。魚1尾で身をもって学べることはたくさんあります。箸(はし)の使い方も上手になりますよ」。