サメ・エイなど軟骨魚類を、「新しい水産商材」と言っても過言ではないだろう。アンモニア臭く、おいしくない印象は過去の話。下処理や保存技術の発達で様相は一変し、おいしい魚として選ぶ一つが、サメやエイの時代になった。キワモノ狙いではない。偏見を捨て、これら軟骨魚類と向き合ってみた。
サメやエイは浸透圧調整のため、血液中に尿素などを含む。死後、それがアンモニアへと変わり、肉の腐敗を遅らせ、冷蔵庫の存在しない時代に、貴重な水産タンパクを内陸部へともたらした。
ただし、アンモニアに独特の臭みがある。常食していた年配者からは、「今更食べたくない味」との声も多く、郷土料理として根付く地域も、風味として「臭みありき」では、初心者に難しい。
サメ国内水揚量の約9割を占める宮城・気仙沼では、フカヒレほか、正肉の加工も歴史が深い。さつま揚げやハンペンなどスリ身に加工され、ねり物に利用されている。
伝統的な食材向けだけでない。現在では、釣り上げたヨシキリザメの内臓を船上で処理し、低温保管・凍結保存する近海マグロ延縄船もある。その身は刺身で食べられるほど高鮮度で、身は陶器のように白く透き通り、特有の臭みもない。加熱すると筋繊維が溶け、変化するふわふわとした肉質は、冷めても食感を失わず、一般的な魚にも、肉にもない味わいだ。
新たな良質のヨシキリ肉は、市内の飲食店で「サメカツ」「サメの広東風強火蒸し」などメニュー化されている。今年5月には、日本中国料理協会の協力を得て都内で開催された「第1回サメ肉料理コンクール」にも素材として提供され、中華料理業界から高い関心が寄せられたばかりだ。
(株)さかな人の長谷川大樹社長いわく、「料理法が分かっていれば、『きょうはカスザメの腹側を』など、アドバイスできる」ほど、その味は異なるそうだ。両魚種などを含む軟骨魚類(綱)は、全世界に1000種ほど存在している。「サメ・エイはこんな味」と、ひとくくりにできないのは、スズキ目がマグロからマアジ、マダイまで含むことを思えば分かりやすい。
大切なことは、やはり処理の仕方という。軟骨魚類を高級食材と位置付けるイタリアやフランスでは、漁業者も意識して処理しているが、偏見の殻を破れず、外道扱いでは「臭い魚」のままだ。
長谷川社長は時に船に乗り、船上で脱血処理や神経締めを行う。海外で修行をしたシェフらが、日本で料理を再現したいと、同社の魚を求める理由はここにある。「産地まで来て、手をかける価値がサメやエイにはあり、評価してくれる人も確実に増えている」。
種ごとの特徴を挙げてはきりがないが、軟骨魚類の名が示すように、サメやエイには小骨が存在しない。背骨軟骨一本で体を支えており、エイヒレも軟骨だ。英国でフィッシュ&チップスにサメを多く使うのは、小骨がないことも理由にある。
「小骨があるから魚は嫌」という子供を、頭から否定しないでほしい。ならばサメやエイを。良質な軟骨魚類が、選べる時代になっている。