家庭の食卓に魚を登場させるには、「どこででも手に入りやすく控えめ価格の魚が、簡単で、臭いも出さずに調理でき、小ロットでバラエティーに富む。もちろんおいしく、でも洗い物は少なく―」などなど。消費者の要望は尽きない。もはや魚は外食の時代なのか。そんな現代にこそ、湯煮(ゆに)の存在価値が高まる。
北海道の一部ほかの伝統調理法・湯煮の作り方はとても簡単。
? 魚の切身全体に薄く塩を当てる
? 鍋かフライパンで沸かした湯に、少量の酒を入れる
? 魚を入れ、沸騰しない火加減で3?5分加熱し、取り上げる
魚に塩と酒を同時に当て、?にしてもよい。
味付けはネギとポン酢の「和風」や、バター醤油に黒コショウの「洋風」、醤油、ショウガ、ネギ、豆板醤、ゴマ油で和える「中華風」など。調味料次第で、装いはガラリと変わる。
塩は魚の臭みを吸い出し、酒の有機酸でそれを分解、ゆでることで臭みや酸化物を洗い流すと同時に、表面のタンパク質を凝固させ、うま味は閉じ込める仕組みだ。ポイントは火加減。グラグラと湯を煮立たせれば魚の細胞も沸騰し、うま味がどんどん出てしまう。
鍋物や汁物、煮魚との大きな違いはここにあり、上手にできた湯煮ほど、ゆで汁には何の味もない。シンプルだが魚の味をしっかり感じられる料理は、特に子供受けがよいという。
水産庁研究指導課の上田勝彦情報技術企画官は、機会があるごとに、湯煮を伝えている。きっかけは、魚はどうしたら売れるかと、実演販売で食べ方指南をする中でのこと。「焼き魚はグリルが汚れる、臭いがつく」「煮魚は、そもそも煮方が分からない」と返されたそうだ。
ならば揚げる、蒸すといった加熱法は、より難儀なものだろう。湯煮は「誰にでもでき、失敗のしようがない」ことも重要だが、「魚全体を同時に同じ温度で包み、最短時間で加熱し、うま味を逃がさない調理法」として優れているという。
切身が主流の魚売場では、サンマならば頭と内臓を抜くのが当然、最近では身を半分?3分の1にカットしたものが売れ筋と聞く。だからこそ、売場では湯煮を提案してほしい。
量販店で売られる魚を使う簡単・おいしい調理法に、調味料の分量指示はなく、1人前からも再現しやすい。写真にわずかな解説の案内で、十分に伝わるはず。まずは量販店の販売担当者から、お試しあれ。