2026年2月26日(木)

《無料公開中》<なつこの浜日々>1 「朝早い」漁師の生態

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 漁師は朝が早い。父の仕事を手伝おうと思うと、とにかく早起きがいちばんのハードルになる。なぜそんなに早く起きる必要があるのかと、最初は不満に思っていた。「働き方改革しなよ」なんて軽口をたたいたくらいだ。

 ある真夏の日、寝ていたい体を起こして、早朝の刺網漁について行った。日はまだ昇っていない。薄暗い中、海に出ていくと、心地よい涼しい風が頬にあたる。昼間の猛暑日なんて感じさせないひんやりとした風だ。

 ところが、水平線から太陽が昇ってくると、その心地よさは一変する。明るさとともに感じる太陽の熱。日が昇る前に仕事を終わらせたがる父の気持ちが、ここで初めて分かった。

 日が昇りきってからは、つなぎかっぱの下で滝汗をかき、肌が出ているところはジリジリと焼けるのが分かる。それからは私も、「日の出前に行きたい」と思うようになった。

 ちなみに父を観察していると、いつでも朝早いわけではない。波や潮が穏やかな時間帯や、魚が動き出す時間帯を狙ったりもする。とにかく何かしらの合理性を求めていることは確かだ。自然との折り合いをつけて、働きやすい方法を選んでいるのだ。早起きが嫌なだけで“働き方改革”だなんて言った自分が恥ずかしい。

 朝早くに漁に出た日は、ほかにもたくさんいいことがある。まず、家族との時間がつくれる。子供の頃、学校が終わって家に帰ると家族がみんな家にいた。夕飯も家族揃って食べていた。

 趣味や自分の時間も案外ある。夜寝るのは早いが、撮りためたドラマの録画を昼間にうとうとしながら見る幸せな時間があったり、漁が終わってから趣味のゴルフの打ちっぱなしに行ったりする人もいる。

 そしてもう一つ。晴れた日に海の上で見る朝日は格別だ。祖父と一緒に漁に出ていた経験がある82歳の祖母が、先日私に、「昔海で見た朝日が最高だった」と自慢してきた。テーブルの上の鮮やかなオレンジ色のあんぽ柿を指さし、「ちょうどこんな色でね。あれは船に乗らなきゃ見られない」と。いわゆる“ドヤ顔”で。

 一つだけ不満があったとすれば、旅行に行けなかったことだ。海がシケていなくて、かつ魚が獲れる日はそうそうない。そんなラッキーな日を逃しては商売上がったり。旅行中に仲間が大漁をしたと聞けば悔しくてたまらないから、めったに遠出をしない。

 一度だけ思い切って漁を数日休んで某テーマパークに家族旅行したことがあるが、父は仲間の漁模様が気になって仕方なかっただろう。唯一といっていいこの家族旅行は、私にとって最高の思い出になっている。(久保奈都子)

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