2026年5月30日(土)

<魚食にっぽん>本気のアイゴはケタ違い、愛媛・古屋野水産 vol.184

アイゴの刺身。市場価値が一転する可能性を秘める
アイゴの刺身。市場価値が一転する可能性を秘める
 (株)古屋野水産(愛媛・八幡浜市)の古屋野太一社長は、アイゴの臭みを効率よく除く技術を確立し、特許を申請した。特有の臭いさえなければ天然魚とは思えないほど脂が乗った、驚くほど味の濃い白身魚になる。私たちはまだ、本気のアイゴに出会っていなかった。

活け越ししたアイゴを手にする古屋野社長
活け越ししたアイゴを手にする古屋野社長
 アイゴが未利用魚の代表といわれる理由は、毒をもつ鋭いヒレと強く特有な臭みにある。雑食性で海藻や甲殻類を食べ尽くし、磯焼けの主犯格ともいわれる。「厄介な魚と扱われても仕方がない」と、信じ切っていた。だが古屋野社長は、地元でも食文化が希薄なアイゴの観察を続けて、こうした常識を覆している。

「臭み抜き」で特許申請中

 ストレスを感じるとアイゴは、体表から臭いを出す。水揚げ直後は海水にもアイゴ臭が移るほどだ。同社はアワビの種苗生産を事業の柱としている。場内の陸上水槽を活用し、活け越し(餌止めをして生かす)を行う。

水面全体に広げた気泡がポイント
水面全体に広げた気泡がポイント
 この時にエアレーションを、水面全体に広がるよう配置するのがポイントだ。発生する気泡に臭いの成分を吸着させて分離し、海水でかけ流す。臆病なアイゴは、わずかな影にも反応してしまう。酸素を供給しながら泡が影になり、ストレスを緩和させる効果もある。

毒針に気を付けて〆る
毒針に気を付けて〆る
 活け越しは最低でも1週間を置く。アイゴは内臓に多くの脂肪を蓄える魚で、この程度で身が痩せることはない。臭みは血液や表皮、その下の薄皮、内臓を囲む腹膜に付きやすい。そのため〆る時は暴れさせないよう脱血させ、毒のあるヒレと頭、内臓を取り除く。皮をひく時は薄皮に少し身を残すようにして切る―など、臭みを出さない処理と調理技術も編み出した。

手間をかける価値あり

〆たての身は一点の濁りもない
〆たての身は一点の濁りもない
 記者はこれまで2度、アイゴの刺身に挑戦した経験がある。いずれも2切れ以上を食べ進められなかった。取材を行いながら「そうは言っても」との思いにとらわれていただけに、〆たてを食べさせてもらって驚いた。

 臭みは全くない。そのうえで食感は背側がしっとりと、脂の多い腹側はサクサクとして異なる。どちらも食べ進めるにつれ甘みを感じた。

 2日寝かせると、脂が身に回り白みを帯びた。もっちりとした食感に変わる。天然魚でこれほど脂を感じる魚が思い浮かばない。ただし「ベトベトする」「くどい」とはならない。イシダイにも似るが、うま味はこちらの方が強いのではないか。

 ポテンシャルの高さが途方もない。「手をかける価値がある魚。『ここまでおいしい』ことに、気が付いてほしい」と、古屋野社長は胸を張る。

 古屋野社長がアイゴに携わり7~8年になる。群れて泳ぐアイゴは、定置網に1トンも入る時がある。だが買い手がつかない。網に入ると困る魚で、漁業者から「売り物にならないか」と、相談されたのが始まりだった。

 一連の仕組みを完成させるまでに3年を要した。細かな改良も加えながら、現在は臭みのないアイゴの通年出荷を実現させた。「潤沢でおいしい、この資源を使わない手はない」と断言する。

 こうした古屋野社長の取り組みを、愛媛・松山市の「壽司きんぼし」が支持しており、同店では多様なアイゴ料理を提案してきた。さらに6月には、松山市内に専門店「愛ご屋」を出店する。まずは丼メニューをランチ限定で開始する予定だ。

 海水温の上昇で、アイゴは年々分布域を広めている。だが、高級魚に化ける実力がある魚だと、物言えぬアイゴに代わって古屋野社長が証明してくれた。決して厄介な魚ではない。愛媛で新しい魚食文化に育っている。

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