こんにちは!
はじめまして石井元(いしい・はじめ)です。今まで(一社)漁業情報サービスセンター、(一財)東京水産振興会に所属していて、水産業界にも大変お世話になっていました。世界中がコロナ禍に覆われた2020年の秋からメールや東京水産振興会のホームページで掲載してきた「豊海おさかなミュージアム旬のお魚かわら版」。今年3月に一つの区切りをつけましたが、今回新たに、水産経済新聞で「続・旬のお魚かわら版」をお届けすることになりました。昭和年代からみると、今、水産業界は海洋環境の変化を含め大きな転換期を迎えています。そんな状況を踏まえながら、魚類をめぐる過去・現在・未来へつながるような魚の話をお届けします。1回目は旬を迎えている「マアジ」です。
(※編集の都合で、実際の旬より掲載のタイミングが遅くなってしまったことをおわびします)
沿岸のキアジ、沖のクロアジ
マアジ(スズキ目アジ科マアジ属) マアジはスズキ目アジ科マアジ属に分類されますが、アジ科の魚類は種類がかなり多く、マルアジ(アオアジ)やムロアジなどはムロアジ属になり、ブリ、ヒラマサ、カンパチなどもアジの仲間のブリ属に分かれます。ブリも実はアジの仲間です。
食材としてのマアジとムロアジの違いは、主に生食用に利用されるかどうかです。マアジは往時に比べ少なくなりましたが、日常的に食卓に上がりますし、干物の原料としてもムロアジとは違った存在感を誇っています。ムロアジ類は、主に「くさや」などの干物に利用されますが、浜で食べる新鮮な刺身はマアジに負けないくらいおいしいものです。
マアジには形態的にもはっきり分かる特徴があります。頭の後方から尾にかけてゼンゴと呼ばれている堅いウロコ(稜鱗<りょうけん>)があり、ムロアジ属などにもありますが、その他のアジ科の魚類では、ないかあまり目立たない程度です。
マアジは北海道沿岸から九州南岸の日本海、東シナ海、太平洋沿岸、瀬戸内海と列島周辺の全域に生息、朝鮮半島沿岸、渤海、黄海、南シナ海沿岸まで生息しています。寿命は5歳前後とみられているが、10歳以上になることも。2歳でほぼすべての魚が成熟します。マアジには沖合を大きく回遊するものを「クロアジ」、狭い地域で生活し成長するものを「キアジ」と区別して呼ぶこともあります。統計的には「クロアジ」も「キアジ」もマアジとして集計されていますが、浜の現場では区別され、価格的な評価にも差があり、比較して脂の乗りがいい「キアジ」の評価は高いといえるでしょう。ちなみに房総地区の一本釣りでつとに知られる「黄金アジ」は、「キアジ」になります。マアジの呼び名も地域によってさまざまで、ごく小さなアジを「ジンタ」「ジンダ」と呼ぶ地域もあり、今はあまり聞かれなくなりましたが、銀色に光る見た目が昔からある口中清涼剤に似ていることが由来と聞いたことがあります。
旬を迎えているマアジですが、今漁獲状況はどうなっているのでしょうか。
グラフ1:マアジの国内生産量の年別推移(1957~2023年) グラフ1はマアジの生産量の推移(1957~2023年)です。図表をみると1960年代前半と90年代中盤の2回漁獲のピークがあります。ところが2000年代に入ってからは漁獲の復活することはなく基本的に漸減傾向が続いています。特に令和の時代に入ってからは、10万トンに達する年はなく9万トン台の低調な生産量に終わっています。
漁獲量だけからみると少し心配な状況にあることが分かります。マアジは漁獲量の主体を占め東シナ海から日本海を回遊する「対馬暖流系群」と、主に太平洋側を回遊する「太平洋系群」のグループがありますが、対馬暖流系群の資源量は13~22年は34.7万~46.0万トンの範囲にあり23年は38.4万トン。親魚量は直近5年間(19~23年)でみると横ばい傾向で、23年には26.1万トンとされています。以前からいわれていますが、現在でも0歳魚と1歳魚の占める割合が高く、2015年以降の0歳魚尾数は16億~43億尾で推移していると。いずれにしろ小型魚が漁獲の主体を占めています。
主に釣り、網などで漁獲されるブランドアジも漁獲不振で最近はあまり目立たなくなっています。いずれにしろ、この結果をみる限りではなかなか急激に復活することは想像できませんね!
海域別の生産動向推移(10年ごとの比較) 表は、各年(23年、13年、03年)の都道府県別魚種別漁獲量のデータを海区ごとにまとめ、その割合を表したものです。この図では東シナ海区(長崎県主体)が依然漁獲の主体ですが、日本海西区(島根県、鳥取県主体)シェアが落ちてきているのが分かります。加えて太平洋中区(愛知県、三重県、静岡県主体)、太平洋南区(宮崎県、高知県、鹿児島県主体)が徐々にシェアを伸ばしつつあります。実はこれを作成する前は太平洋北区や太平洋中区がもう少しシェアを伸ばしてるのかと思ったのですが意外に伸びてはいませんでした。東日本大震災前後には東北の関係者の話では、マアジが連日のように水揚げされ、処理に困っているというような話を何回か聞いたことがあり記憶に残っていたのですね。
東京都中央卸売市場におけるマアジの月別取り扱い状況(2004、14、24年) さて冒頭マアジが旬を迎えているということを述べましたが、旬についてはいろいろな見方があります。一般にたくさん獲れる時期やいちばん脂が乗っておいしく食べることができる時期などともいわれます。ただ、海の環境の変化などで回遊する時期が変わったりすると、そこで生活する人などにとっては以前とは違った感覚に襲われたりといったこともあります。グラフ2は東京都中央卸売市場に入荷したマアジの月別取り扱い状況を10年刻みで表したものです。この図をみるとその年によって取扱数量の差があるものの、4、5、6月に必ずといっていいほど入荷のピークを迎えているのが分かります。こうした傾向は昭和年代から続いていて、マアジが列島の北部(東北地方など)でも恒常的に漁獲されるようになった現在でも変化はないようです。
ただ、マアジは図にもあるように下半期になっても極端な減少をみせることなく、周年商材として地位を保っているのを反映しています。街の専門店やスーパーでは、マアジは季節的な増減はあるものの、旬を保ちつつ貴重な周年商材として存在感を放っています。
アジは青魚でも格上?
「魚は臭い」というイメージが付いて回りますが、マアジは青魚の中では臭み(クセ)の最も少ない魚の一つです。その意味では一見白身魚のような印象を受けます。一般的に日本人の好み(?)としては白身=格上意識が強く、青魚は一般的に格下とみられています。味や好みなどとは関係なく。
マアジの旬もシーズン終盤になりましたが、買う際には目が澄んでいて体、特におなか周りに張りのある魚を選ぶのがコツ。関東以西では昭和年代に「アジフライ」はごく普通に存在していた調理法の一つでした。しかし平成年代以降長崎県の松浦市は、「アジフライの聖地」としての脚光を浴びました。何といっても松浦は、マアジの水揚げ日本一を占めていること、したがってさまざまな漁法(まき網、一本釣り、定置など)で漁獲された鮮度のよいマアジが日常的に入手できること、さらにこうした有利な条件もありノンフローズンもしくはワンフローズンで提供できること、そしてアジフライにかけるソースにもウスター、醤油、塩、タルタルなどさまざまな食べ方の工夫も提案しており、それを支えています。「アジフライ」といえば筆者は、三枚おろしにしたアジを油で揚げる前に牛乳に漬け、その後粉付けをして揚げます。もともと臭みのない魚ですが、さらにすっきりしてふっくらと仕上がります。房総地区でも「黄金アジ」を使用した「アジフライ」を看板にした食堂も多いので、機会があったらぜひトライアルしてみてください。