2026年6月19日(金)

《無料公開中》<タコ博士水産奮闘記>3 放したタコはどこへ?

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タコ(その1)

 津軽海峡でミズダコの資源管理を担当した三十数年前、漁業者との話し合いが続いた。30歳そこそこの私が「小さいタコを放流してください」と言うと、「放したタコは誰が獲るんだ」「北海道に渡ってしまうんだろう」「収入が減る」「何年で大きくなるんだ」「回収率は何%だ」「アワビを食べてしまう」「害敵生物は何だ」と嵐のような質問攻めにあった。真剣だからこその質問だった。

 当時は体重2キロ未満の個体を再放流する自主規制のルールだった。特に津軽海峡では本州側、北海道側とも底びき網漁業が行われていない。一方で、海峡の両側、日本海と太平洋では、底びき網漁業が行われていることから、放流したミズダコが津軽海峡の外に移動し、底びき網に獲られてしまうのではという懸念があった。

秘密兵器は「ムシロ」

 前任者から行われていた標識放流を継続した。ミズダコを追いかけているブルーのかっぱ姿は当時の私だが、底に敷いているのは「ムシロ」。最初はビニールシートの上で行っていたが、タコがシートに引っ付いて大変だった。知り合いの漁業者から「ムシロ」だとタコが容易にはがせるとのアドバイスをもらい、ムシロを採用した。それからは、標識放流の調査機材に「ムシロ」が必需品となった。

 漁業者と協力して放流したミズダコは、前任者の期間も含め、1986年から2007年までの22年間で3万6035個体。そのうち1007個体を再捕した。

 津軽海峡で標識放流したミズダコを4つの海域で解析すると、竜飛・今別海域で放流したミズダコは307個体が再捕され、うち83%の256個体は放流した海域で再捕された。同様に大間・佐井海域では595個体が再捕され、うち74%の441個体が放流海域での再捕だった。漁業者の懸念をよそに、津軽海峡外の日本海、太平洋に移動したミズダコはごくわずかだったことが分かった。

 一方、14%の個体が津軽海峡を横断し、対岸の北海道側で再捕されたが、北海道から放流したミズダコも青森県沿岸に移動していた。お互いさまである。

 このように、ミズダコは高い地域性が確認され、放流してもかなりの割合が同じ場所にいることが判明し、漁業者も安心して小ダコを放流できるようになった。

 さて、津軽海峡の中央には水深200メートル以深の海底が横たわり、その下には青函トンネルがある。14%のミズダコはなぜ津軽海峡を横断するのか? 謎が増えた。(つづく=随時掲載)
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