2026年7月14日(火)

ニッスイサーモン 国産養殖ギンザケ、生産拡大 三陸・岩手で7000トン体制

「ニッスイサーモン」ブランドの養殖ギンザケ
「ニッスイサーモン」ブランドの養殖ギンザケ
 「これからのニッスイサーモンに期待していただきたい」と静かに、しかし力強く話す鶴岡比呂志(株)ニッスイサーモン社長。6月下旬、ニッスイサーモンの養殖ギンザケ水揚げ最盛期を迎えた岩手・陸前高田でメディアツアーが開かれ、気仙川養魚場や本格生産が始まったギンザケの水揚げ、2年前にニッスイグループになった(株)武蔵野フーズでのサーモン加工風景などを視察することができた。2030年までに岩手県での7000トンの生産を中心に全国で1万トンの養殖ギンザケの生産を目指す国産「ニッスイサーモン」の最新情報を紹介する。

「ニッスイサーモン」のロゴ
「ニッスイサーモン」のロゴ
 ニッスイは30年には境港2300トン、佐渡800トン、岩手3漁場(大槌、大船渡、陸前高田)で7000トンの合計1万トンの養殖サーモンの生産を目指しているが、そのサーモン事業が大きな転換期を迎えている。今年3月、15年間同社の養殖サーモン事業の中核を担ってきた鳥取・境港市の「弓ヶ浜水産」の社名を「ニッスイサーモン」に変え、各地の「境港サーモン」「佐渡サーモン」「大槌サーモン」など地名を付したブランドもすべて「ニッスイサーモン」に統一した。養殖から生産、販売までフルバリューチェーンで行っているニッスイが責任をもって取り組んでいくという“証し”を明示したものだ。 

 ニッスイのサーモン養殖は、実はさかのぼること40年前の1986年、宮城・女川町でギンザケの養殖から始まった。ただ、残念なことに2011年の東日本大震災で女川町の事業拠点はすべて壊滅してしまったことから、再起を模索した中で日本海側の鳥取を「再生の地」に選択。境港では「弓ヶ浜水産」という名前でサーモン養殖事業が移管され、同社では最新鋭の人工知能(AI)・モノのインターネット(IoT)を活用した独自の遠隔モニタリングシステムや自動給餌システム「アクアリンガルR」による養殖や自社の生鮮加工場施設を造り、関西エリアを中心にチルド出荷をし、実績を積み上げてきた。

 その後、16年に新潟・佐渡市、20年に岩手・大槌町、24年に陸前高田市、25年に大船渡市(試験養殖)で順次養殖生産をスタートしている。岩手での生産開始について鶴岡社長は「女川ではないが、ようやく三陸に戻ってきたという感じだった」と感慨深げに話す。今でも鶴岡社長自身、国内での養殖サーモンスタートの地だった女川には時折顔を出し、大先輩たちとの交流は続いているということからも三陸への思いの強さを感じる。

30年には1万トン

気仙川養魚場
気仙川養魚場
 30年にニッスイサーモンで1万トンの生産を計画している中、岩手県だけで7000トンもの数量を計画している。安定的な生産を行うためにキーポイントとなるのが卵の安定供給と種苗育成の確保だ。現在、卵に関しては鳥取・船上山にある自社生産のものと、それ以外には北海道や輸入で手当てしているというが、今回は、卵をふ化させ、育成する養魚施設の一つ気仙川養魚場を訪れることができた。

 この養魚場はJF広田湾漁協が長年にわたってシロザケの放流事業を担ってきたサケ・マスふ化施設で、昨年その一部を改修し、「(株)ニッスイ 気仙川養魚場」として新設した。現在10個の大型水槽が設置されている。もともと岩手県内では1990年代には8万トンぐらいの秋サケを漁獲していたのが、現在は100トンを割るレベルまで減少している。国の補助金で震災以降もふ化場が県内に40近く再整備されてきていたが、気候変動などの影響を受け漁獲減により、実際に稼働しているふ化場は数拠点しかないのが現状だ。

 かなり大きな投資をしても漁獲減で稼働率が下がっている中、運営する漁協としては厳しい。ただ、シロザケのふ化を目的に整備された施設をほかの魚種で活用するには制度上の壁があった。ニッスイはそうした状況に「私たちも種苗を確保できるし、漁協にとっても施設を有効に活用できる」と水産庁などへ働き掛けを行い、サーモンの種苗育成用に転用することがかなった。ニッスイが利用するのは広田湾漁協が実施しているシロザケふ化放流事業の休止期間(5~11月ごろ)で、既存の取水設備などをサーモン種苗生産にも転用できるように改修している。

沖合の養殖イケス
沖合の養殖イケス
 気仙川養魚場は豊富な冷たい地下水が安定した状態で揚水できるのが最大の特徴で、かけ流し方式で稚魚を育成している。4月に卵からふ化した5グラムの魚は11月には200グラムまで成長し、その後海へ沖出しされるという流れとなっている。ニッスイはさらに今後、2拠点の養魚場で同様な活用をする方針を固めており、種苗の安定生産に向けた取り組みを進める。同社としては、同養魚場の稼働をきっかけに自治体や地域の漁協と協働しながら、ふ化場の有効活用を通じて種苗生産体制の強化と生産拡大を進めていく方針のようだ。

9月フィードバージ船も導入

魚が擦れないように丁寧に水揚げ
魚が擦れないように丁寧に水揚げ
 今回の視察では、陸前高田(滝浜漁場)での養殖ギンザケの水揚げ状況を視察した。広田湾には現在2か所の養殖場が設置されており、そのうち沿岸に近い方では現在25メートルのイケスが2基設置されているが、今漁期が終了したら、次年度の生産に向け、50メートルのイケス5基を設置するほか、同時にすべて自動で餌やりが可能となるノルウェーAKVA社製の240トン型フィードバージ船を導入する予定となっている。これによりこれまで一イケスで100トン程度の水揚げだったものが400トンの水揚げが可能となる。陸前高田にフィードバージ船が入ることで、魚への餌の供給が悪天候でも可能となるほか、これまで毎日のように人手で餌を補給していた作業はなくなり、効率よく養殖生産ができるようになる。現在、バージ船はベトナムで製作されており、9月末から10月ごろには広田湾の沖合に入る予定だ。

活〆は"こだわり"追求

電気ショックの台を通ったあとは速やかに活〆
電気ショックの台を通ったあとは速やかに活〆
 現在の水揚げでは平均3キロサイズを中心に一日3~5トンの水揚げがされているが、最大のこだわりポイントは水揚げ後、すぐに丁寧かつ迅速に一尾一尾手作業で行われる活〆作業だ。なるべく魚を暴れさせないよう丁寧に水揚げされた魚は活〆の前に電気ショックを与える台を通って沈静化させ、その後はすぐに人手による人海戦術で活〆作業が施される。これは境港も佐渡も同じ方式で、生鮮出荷で魚を最もよい状態で提供するための最大のこだわりになる。鶴岡社長も「魚が暴れると筋肉が粗くなり、刺身で食べても食感は悪いし、置いておくとドリップが出るが、われわれの活〆方法では魚のおいしさをしっかり感じられるのが特徴」と強調する。

武蔵野フーズの"こだわり"加工

武蔵野フーズの成田社長
武蔵野フーズの成田社長
 水揚げされた養殖ギンザケは複数の委託提携先の近隣加工場に持ち込まれ、一次処理で内臓や頭カットなどドレス加工されたものが、2年前にニッスイグループに入った陸前高田市にある武蔵野フーズに搬入され、フィレーや三枚おろしなどトリミング加工される。武蔵野フーズは寿司用スライスなど生食用水産加工品に強みをもつ会社だ。

 今回訪問した武蔵野フーズは、スペースとしてはそれほど大きな加工場ではないが、製品は冷凍品が9割ほどを占め、大型機械はトンネルフリーザーぐらいで、自動機械はほぼ入れておらず、骨取りなど細かい作業はすべて人手で行っている。

加工場内では丁寧な骨取り作業
加工場内では丁寧な骨取り作業
 あえて工場を大きくせずに手作業にこだわっている理由について、成田聡武蔵野フーズ社長は「人による徹底した品質管理とスピード対応が当社のこだわりの点。数多く生鮮加工品を扱っている積み重ねもあり、機械に頼らない丁寧な加工でお客さまの要望に応えることができる」という。「国産原料が主体だが、最近は輸入原料も扱う」と言い、「何よりもニッスイのグループ会社になったことで販売先が広がりつつある」という。

持続性、地域貢献も注力

 ニッスイは、生産だけでなく地元の環境への貢献にも取り組んでいる。25年には陸前高田市と「企業等による森づくり制度」の活動協定を結び、森、川、海の生態系の保全や海業振興モデル地区に選定された吉里吉里漁港で地域とともに藻場再生活動に取り組んでいるほか、今年4月からはサーモン養殖場の中編にナマコ種苗の放流や生育環境整備とモニタリング試験をスタートさせている。養殖環境のモニタリングや漁場環境測定を通じて、海洋環境変化を把握、海洋環境にもたらす負荷低減にも取り組んでいる。また「岩手大槌サーモン祭り」にも参加し、ニッスイサーモンのブース出展など地域社会との共生など持続可能な養殖事業に向けたサステイナビリティな取り組みも進めている。

鶴岡ニッスイサーモン社長(中央)と前田充穂取締役養殖部部長(左)、御供俊介養殖部海洋課課長
鶴岡ニッスイサーモン社長(中央)と前田充穂取締役養殖部部長(左)、御供俊介養殖部海洋課課長
 鶴岡社長は「われわれにとって新しい岩手のエリアでは境港で築いてきた技術に加え、新しい技術も組み合わせながらさらなる生産性の向上を進め、追求するとともに地域への貢献も果たしていきたいと考えている。今回は皆さんに完成ではない途中段階の様子を見ていただいたが、この先、フィードバージ船の導入や大型イケスの設置と、次々に最新鋭の施設を投入していくので、ぜひ今後も注目していてほしい」と意欲を示していたのが印象的だった。
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