2026年4月4日(土)

《無料公開中》<事例で考える洋上風力>1 「漁業第一」、勇気出し主張

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洋上風力の基本(その1)

 「(洋上風力という海の開発行為によって)小国川(おぐにがわ)のような不幸な事件をまた繰り返すのでしょうか」――。

 今から8年前、筆者が名古屋大学に勤務し洋上風力と漁業の共存の研究をスタートさせて間もない頃、山形県遊佐地先の漁業実態調査をともに行っていた山形県水産振興課の職員からあった訴えを今でも忘れることができない。ダム開発を進めたい県の開発部局と内水面の漁業を守りたかった県の水産部局との相克の中で、結局水産部局が漁業者を守ってあげることができなかった、その悔しくて悲しい思いがあったのだと思う。真面目にがんばっている漁業者の足を引っ張るような海洋開発、洋上風力であってはいけない。漁業に支障や悪影響があると思うなら遠慮せず勇気を出してそう主張すべきだと思う。

 全国に先んじて山形県遊佐地先の漁業実態調査を手掛けた筆者としては、「遊佐町沖」ではなく「遊佐地先」の洋上風力発電事業が漁業との協調を図るうえで全国のロールモデルとなることを願ってやまない。そして、「漁業第一」に、洋上風力に向き合っていくことを、都道府県の水産部局や漁協・漁業団体の責任者には今回の連載企画の冒頭にこのことを改めてお願いしたい。

変化する事業環境

 三菱商事連合の洋上風力発電事業からの撤退を機に、事業環境が大きく変化している。領海(沿岸の基線から12カイリ=約22キロ)内に続いて、6月の法改正により排他的経済水域(EEZ)(基線から原則二百カイリ=約370キロ)にも対象を広げた展開も始まろうとしている中で、漁業界は今後、変化する洋上風力とどう向き合っていけばいいのか。国が果たすべき役割、地方自治体が果たすべき役割が十分に発揮されないなど政策的な課題も山積する中で、すでに洋上風力に直面している漁業者、今後、直面する可能性のある漁業者は、どこに注意を払い、何に判断材料を置くべきか、各地の漁業と洋上風力の関係を追い続けている。

 具体的には、(1)覚えておきたい洋上風力の基本(2)これまでの洋上風力の経緯と変化(3)洋上風力事業のこれから(見通し)(4)各地事例の分析(5)共通する課題と対策(6)洋上風力と漁業の共存に向けて――といったイメージで全12回を半年間にわたり連載形式で書き進める。

EEZは広くない

 まず海を俯瞰(ふかん)してみる。図のように領海とEEZで構成される。よく海洋を述べる枕ことばで「わが国の排他的経済水域は世界第6位の広さを誇るため、洋上風力の大規模導入の可能性が高い」といわれるが本当にそうだろうか。

 図を見ていただくと分かるが、わが国周辺の海は近隣国との間で締結された漁業協定や民間漁業団体の交流を通じて取り決められた、あるいは近隣国から一方的に示された水域がオーバーラップしてくるため、EEZの漁業に関する主権的権利は実際上かなり制約されている。これらは漁業についてのものとはいえ、周辺国などとの間では、今現在、画定されたEEZの境界線がないため、国連海洋法条約の解釈に基づくわが国のEEZ設定の立場を「排他的経済水域および大陸棚に関する法律」に規定した中間線で洋上風力を実施しようとした場合には、近隣国などとの間で主権的権利が対峙(じ)することとなり、実質的に実施は困難である。最近の奄美沖の中国や竹島周辺の韓国の海洋調査船の中間線を越えた日本のEEZにおける海洋調査実施でも明らかなように日本海と東シナ海では深刻である。

 さらに風況や浮体式の技術・コストを考慮した場合、実際に洋上風力の事業化が可能なエリアは、想像以上に限定的だ。「広いようで実は狭い」、単に「海が広いから洋上風力ができる」といった安易な認識では、洋上風力の事業実施のポテンシャルを見誤ることにつながりかねない。このことを関係者はぜひ理解してほしい。だからこそ、磯(主に漁業権が設定された海域)は地元を尊重のうえで「協調」(※〈一社>海洋産業研究・振興協会が「共生」に先駆けて提唱した用語を尊重)が、沖(EEZ)では「すみ分け」が必要となってくる。(つづく=随時掲載)

農林水産政策研究所 梶脇利彦



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