魚津市漁場環境保全会は6月12日、全国の漁協や信漁連、農林中央金庫で組織するJFマリンバンクのサポートを受け、富山・魚津市の片貝山ノ守キャンプ場付近で植樹活動を行った。JF魚津漁協、新川森林組合、JAうおづのほか、県立滑川高校海洋科の生徒ら計130人ほどが参加。俳優でJAバンクのイメージキャラクターを務める松下奈緒さんも加わり、ケヤキとトチノキ計30本を植えた。これまでの植樹本数は今回を含め1577本、活動面積は0・26ヘクタールとなった。
「ブルーバトン」を次世代へ
植樹する松下さん((右)から2人目)ら 同保全会は、海藻やアワビ、カキなどの水産資源が減っているとの地元漁業者の声をきっかけに発足。2010年から、魚津市を流れる片貝川の上流域で植樹を重ねてきた。山から海までを一つの水環境ととらえ、森林に蓄えられた水や養分が川を通して富山湾へ届き、豊かな漁場を育むとの考えのもとで年1回の植樹を地域ぐるみで行っている。雪害も起こりやすい地域だけに、植えたあとも森林組合が継続して苗木の細かな管理を行っている。
保全会で活動する((左)から)松﨑組合長、濱住組合長、末上常務 開会式で魚津漁協の濱住博之組合長は、16年余り活動を継続できたのは参加者や高校生の協力があってこそだと感謝を述べ、漁獲量の減少など海が抱える課題にも触れながら、豊かな富山湾を次代へ引き継ぐ取り組みを「ブルーバトンプロジェクト」と表現。「このバトンを、これからの世代につなげていきたい」と呼び掛けた。
三ケ生産森林組合の山本重成組合長は、山に降った雨が地下水として蓄えられ、やがて川や海へと流れていく仕組みを紹介。海に届いた養分から植物プランクトンが生まれ、それを動物プランクトンや小魚が食べる。「生命の循環は、雨からつながる大切な流れの中にある。山や川、海を大切にしてほしい」と高校生らに呼び掛けた。
松下さんは「植樹は初めてだが、皆さんと魚津のためにがんばりたい」とあいさつ。開会式を終えると、参加者らは森林組合員から手順を教わりながら斜面に穴を掘り、丁寧に苗木の植え付けを行った。
活動に参加した高校生ら 滑川高校の生徒は、授業でイワシやサバを調理した際に出る未利用部分を発酵させて作った肥料を持参。同校では年2回ほど海岸清掃を行っており、秋には生徒が海に潜って海中ゴミを回収する活動などを行っている。
加藤光一教諭によると、植樹に初めて参加する生徒の中には、当初「なぜ漁場を守るために木を植えるのか」と疑問をもつ人も少なくない。それでも実際に山へ入り、作業に加わることで、森と川、海のつながりに気付いていくという。
濱住組合長はこれまで、同校の生徒を対象に、漁業の実態や資源の減少、担い手不足、漁協による環境保全活動などをテーマに講演を行ってきた。「実際の現場を知らなければ、なかなか分からない。一緒に山へ行き、木を植えることがいい経験になる」と語る。
作業前には森林に関するクイズ大会も行われた 保全会の発足よりさらに約10年前から、魚津漁協青年部は森林組合の指導を受け、木の植え方や適した場所について学んでいた。植樹を始めた背景には、海の中で起きていた変化があった。流木が定置網や流し網に掛かる被害に加え、海藻や魚が減っているとの声も聞かれるようになったことから、「森林組合と協力し、山を本来の姿に近づけることができれば、海にとっても山にとってもいい」と考え、協業を決めたという。
濱住組合長は「木を植えたからといって、すぐに魚が獲れるようになるわけではない。長い年月が必要になる」と話す。その一方で、この活動には苗木だけでなく、参加者の「心の中に木を植える」意味もあるという。「年月がたち、大きく育った木を見た時に『あれは自分が植えた木だ』と思い出してもらう。そこから、人は自然の中で生きているのではなく、生かされているのだと感じてほしい」と願いを込める。以前はやぶだった場所で木々が育っていく様子をみられることも、活動を続けるやりがいになっている。
下刈り作業も行った 活動を通じて、漁業者の意識にも変化が生まれたという。濱住組合長は、水の使い方など身近な環境にも目を向けるようになったことを挙げる。活動を始めた当時は、「SDGs」という言葉が今ほど身近ではなかった。植樹を重ねる中で、山や川、海をひと続きで考える意識が少しずつ根付いてきた。
新川森林組合の末上浩二常務は「海づくりには山づくりも必要」と話す。気候変動が進み、異常な降雨や山林火災などが起きる一方、森林整備を担う若い世代の育成も課題となっている。「言葉で伝えても、現場を知らなければ大変さや苦労、楽しさも分からない」とし、若者が実際に活動へ加わることの大切さを語った。
JAうおづは、植樹活動に2025年から参加している。松﨑映憲組合長は、漁協と森林組合が魚津の自然を守る活動を続ける中で、JAも協力したいと考えたと説明。山から流れる水は、海だけでなくコメや野菜づくりにも欠かせないとし、「森林組合、漁協、JAのどれが抜けても自然環境は守れない。すべて循環している」と力を込めた。
JF東日本信漁連富山支店の担当者は、高校生のみならず企業やJAへと活動が広がってきた点に注目。これまで一緒に何かをする機会が少なかった団体が、山、川、海のつながりを軸に協力するようになった。「尻すぼみにならず、いろいろな人へ広がっている」と活動の歩みを振り返った。環境や国連の持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まる中、企業側から「参加できる取り組みはないか」と声が掛かることも増えた。活動を通じて生まれた縁が、次の協力へつながっている。
外から訪れた人が魚津の環境に関心をもち、その後、地元の魚やコメを味わう。「魚津のものを食べよう」と思ってもらうことが、地域への親しみや愛着にもつながると濱住組合長は考える。片貝川の上流で植えられた小さな苗木は、次の世代へ渡す「ブルーバトン」として、ゆっくりと育ち続ける。