「東日本大震災後の放射性物質と魚」発刊、10年間の研究データ結集

2023年6月27日

水研機構だからこそ伝えられる内容をまとめた

 水産研究・教育機構はこのほど、東京電力福島第一原発事故後の海や河川、湖とそこに生息する水産生物の放射性物質濃度について、10年間にわたるモニタリングデータをまとめ、水産業の復興に向けた取り組みや課題について解説した書籍「東日本大震災後の放射性物質と魚」を成山堂書店から発刊した。

 「国の研究機関として、実際に現地で何が起きているのかを正しく伝えるのはわれわれの責務だ」と出版の経緯を語ったのは、編集に携わった水産技術研究所企画調整部門研究開発コーディネーターの児玉真史氏。

 水産総合研究センター(水研機構の前身)が事故から5年の節目となる2016年に、家庭で魚料理をする人などをターゲットにした一般向けの書籍「福島第一原発事故による海と魚の放射能汚染」を出版したことにも言及した児玉氏は、「前回の出版から5年以上が経過し、どのように状況が変わったのかを多くの人に知ってもらいたい」と話した。

 水産資源研究所水産資源研究センター海洋環境部放射能調査グループの帰山秀樹グループ長は「放射性物質を環境汚染物質の一つととらえ、水産だけでなく環境科学などに興味をもっている人にも読んでもらいたい」と同書のターゲットについて説明。「事故から10年たつと、当事者以外の記憶はどうしても薄れがちだ」とし、広く若い人たちに読んでもらおうと一般の高校などにも書籍を配布したことを明かした。

 10年間の振り返りや、前提となる情報を解説した第1・2章に続き、書籍の目玉となるのは魚類の放射性セシウム濃度などについて書かれた第3・4章。帰山グループ長は「魚類の放射性物質濃度データを取っている機関は非常に少ない。事故前から日本周辺海域で継続してモニタリングを行ってきた水研機構だからこそ伝えられる内容だ」とほかの関連書籍との差異について語った。[....]