水産加工でジレンマ絶つ、アイゴ全量購入から1年

2023年7月21日

ヒレに毒があり臭いも独特なアイゴ

 大分・佐伯市の水産加工会社(株)やまろ渡邉の渡邉正太郎会長は、昨年7月ごろから地元佐伯市鶴見市場に揚がったアイゴの全量購入を続けている。植食性魚類のアイゴを海から減らし、磯焼けした海を再生させて、付加価値の高い本来の生態系バランスに戻すのが狙いだ。利用を促す加工品を開発、販売したことで一連のサイクルが完成。渡邉会長は「継続することで、浜がどう変化するかが楽しみ」と展望を描く。

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 海藻を餌とし、磯焼けの原因の一つとされるアイゴは、海水温の上昇で生息域を広げている〝厄介者〟だ。そんなアイゴにも天敵がいる。アオリイカだ。当地でモイカと呼ばれるイカで、アイゴなどの磯魚を捕食することが知られている。

 アオリイカが産卵する藻場は、アイゴに食べ尽くされつつあるが、逆に藻場が回復すればアオリイカが増え、アイゴの増殖も抑えられる。アオリイカは、漁業者にとって効率よく所得を上げられる漁獲物。陸の流通・加工業者も歓迎する。

 つまり、アイゴさえ適度に海から間引ければ好循環が生まれることになる。ただしアイゴは、ヒレに毒をもつとげがあるため処理に手間がかかるうえ、内臓などには独特の臭みもあり、魚介類が豊富に獲れる佐伯市では「わざわざ食べるものではなかった」という。

 獲らないと減らない。でも売れない-このジレンマを断ち切るきっかけが、日本財団の「海のレシピプロジェクト」だった。昨年夏にアイゴの干物提供を依頼されると、「長年、水産加工業に携わってきたノウハウがある」と快諾。塩だけを使って独自に開発した無添加干物は臭みがなく、スープにすればうま味が凝縮したダシも出た。

 現在は「アイゴ一夜干」として販売するほか、今年5月には「アイゴのトトジャーキー」もラインアップに加わった。

 現在は消費という〝出口〟をつくれたが、依頼があった当初はアイゴを購入できる機会が乏しかった。魚の餌にしか利用されない価値の低さから、定置網で獲れても捨てることが多かったという。

 そのため渡邉会長は〝漁業者が市場に揚げたくなるような価格〟を提示し、漁獲した全量を購入しながら加工開発を続けた。「ウチがうまく扱えれば、皆が得をする」との信念があったという。やがて漁業者も網に掛かったアイゴを全量、市場に揚げるようになった。

 年間を通じてアイゴと向き合うことで、季節による漁獲変動なども把握しつつある。これは前浜の資源量推定につながる。「『最近アイゴ獲れなくなった』『でもモイカは増えている』『海藻の採取期間が長くなった』という会話が耳に入るまで挑戦し続けたい」と、意欲を示している。[....]