迫られた決断/東日本大震災10年[連載後記]絶対他人事にしない

2021年3月11日

歓喜に湧いた石巻魚市場の水揚げ再開

 2011年7月12日。宮城・石巻市の水産業界が水揚げ再開に歓喜した日の出来事だった。沿岸地域はまだどこも傷だらけ。石巻も例外ではなく、津波の深い爪痕が残っていた。大量のがれきは山と化し、道路はあちこち陥没。水や電気などのインフラさえ復旧の途上だった。しかし、水産都市復活には魚が不可欠。早期実現を目指し、業界総出で準備を進めた。いろいろあったが、いちばんは被災水産物の片付け。3か月近く費やし、市内140の冷蔵庫に残っていた原料・製品在庫を延べ4万8177トン処理した。腐敗臭すさまじく、作業は「過酷」のひと言。誰もやりたくないが、終えずして復興には踏み出せない。年齢も肩書も関係なく、団結して作業に明け暮れた。

 大げさでなく、文字通り死力を尽くした末の水揚げ再開。誰もが歓喜に震えていた。高々とこぶしを突き上げていた。発災直後の筆舌し難い惨状、途方に暮れる経営者たちの表情[....]