東南極最大級の氷河、暖水循環像を解明

2023年8月25日

クリックで画像を大きく表示します

研究成果の概要

 国立極地研究所の平野大輔助教らの研究チームは、東南極最大級の氷河であるトッテン氷河の顕著な底面融解を引き起こすメカニズムとして、沖合からトッテン氷河へと向かう暖水の循環像を明らかにした。

       ◇       ◇       ◇

 これにより、この地域の氷床(降り積もった雪が長い年月をかけて押し固められて形成された巨大な氷の塊)損失の包括的理解だけでなく温暖化が進行する現在から近未来の海面水位予測の精度向上にも貢献できると期待されている。

 この研究は平野助教、海洋研究開発機構の草原和弥研究員、産業技術総合研究所の板木拓也研究グループ長、東京海洋大学の溝端浩平准教授、北海道大学低温科学研究所の青木茂准教授を中心とするチームがあたった。

 東南極の沿岸域は暖水の流入により氷河の融解加速が相次ぎ報告されている西南極とは対照的に沖合の暖水から隔絶され冷たく、氷床は比較的安定していると認識されてきた。しかし、近年はトッテン氷河域での氷床質量損失の加速が報告されており、将来的な大規模氷床流出や海面上昇への懸念を含め、国際的にも注目されている。

 日本は複数回の海洋観測を行っており、大陸棚の入り口から氷河の目前に広がる現場観測データを取得。研究グループは沖合の巨大定在渦により比較的温度の高い海水が効率的にトッテン氷河方向へと運ばれていることを突き止めた。

 研究の結果、大陸棚へと流入した暖水が大陸棚上の深いわん状の地形に沿って時計回りに循環。その一部が氷河前面の局所的な深いトラフに沿って最終的にトッテン氷河の下へ流れ込むことで暖水流入を伴うトッテン氷河域の顕著な氷床の底面融解-氷床海洋相互作用の実態が明らかになった。氷床融解を引き起こす海洋からの熱供給には大きな経年的変動があることも判明した。

 今後はトッテン氷河を底から融かす海洋熱供給の変動性とその要因の解明を進めていく。[....]