20年に1度

2018年5月15日

 4月に入ったころから、夕方になると近くから黄色い子供の声と大人の声で歌うお囃子が毎日聞こえてくるようになった。これは6月3日に答志島で開催される20年に1度の行事「お木曳」のための練習である。「お木曳」とは、伊勢神宮の式年遷宮の行事の中の一つとして知られているが、答志島の大漁・安全祈願の神様「八幡神社」もそれにならい行っているもので、前回は知事も見物に来たという大イベント。

 神社の建て替えに使うご神木は、伊勢市内にある山から刈り出され鳥羽の港から10隻余の漁船に乗せ島に運ぶが、3月10日に行われたその行事の際、幸いにも漁船に同乗させてもらえる機会を得た。私は全国豊かな海づくり大会などで大漁旗(このあたりの漁師は富来旗という)を掲げた漁船のパレードを何度も見たことがあるが、これはそれとは全く違った。ご神木を積んだ漁船が2列になり、乗船した多くの若い漁師が、伊勢音頭を大声で歌いながら島に向かって帰る様子を見て身震いがした。これぞ伝統・文化そのものであり、今この瞬間に次の世代に承継されつつある現場に立ち会えたからである。

 正直、島の人がうらやましく思えてきた。これはお金に換えることができない先祖代々引き継がれた島の宝物のような気がした。都会ではいくらお金を払っても手に入れることができない。おそらくそのような宝物は全国各地にも多くあっただろうが、高度経済成長期やその後の効率性一辺倒の経済施策の陰で起こった地方の衰退で次々と消滅してきたのは残念である。

 幸い答志島は漁業が元気で共同体がしっかりしているから、この宝物を次世代に引き継ぐことができている。今後も答志島の漁業がお金第一主義の「成長産業化」などする必要はない。重要なことは「持続性」であり目指すは「永続産業化」。それには、経済(お金)と伝統・文化(精神)のバランスを保つことが大切と思う。