都市に対するボランティア

2017年10月4日

 都市部の高齢者にワカメの加工作業を手伝ってもらったワーキングホリデー(WH)「結(ゆい)」参加者への感謝を込めて、ワカメの時期にはなかったおいしい魚を食べてもらおうと、この夏に「サワラとアワビを食べる夕べ」を開催した。皆さんの到着日はちょうど海女漁の解禁日で、市場でのアワビ、サザエなどのセリも見てもらい、翌日にはサワラのひき縄釣りと小型定置網に体験乗船していただいた。交通費自弁なのに、参加者の8割の方にお越しいただき、本当に心から楽しんでいただくことができた。

 自画自賛となるが「結」には、受け入れ漁家のワカメ作業が楽になるという効果だけでなく、都市部の高齢者に対し普段の生活を通じては決して知り合うことのない漁家との「絆」をつくり出し、老後における新たな「生きがい」を生み出す力があるように感じた。

 東日本大震災のボランティアにも参加された方が、ふと「これは通常のボランティアとは違う。私たちの方が得るものが多い。今の時代にいちばん求められている新たな社会運動になり得る気がする」と言われた。

 その言葉がずーと気になっていた頃に、WH研究の第一人者である東京農業大学の鈴村源太郎教授が「結」調査のため来島された。めったにない機会と厚かましくも講演を依頼したが、そこで先生が「WHは都市住民と農林漁家との強い心のつながりにより支えられている。WHは都市住民に対する農林漁家のボランティア活動」と述べられ、まさにその通りと激しく同感した。

 ワカメ漁家は「手伝ってもらえるのはありがたいけど、何か申し訳なくて」と受け入れを躊躇(ちゅうちょ)されるが、それは逆。むしろ今ある漁村・漁家こそが、都市住民が求める日本が高度経済成長期以降に失った何かを提供できるのである。企業参入による漁民の人減らしで成長産業化しようとする漁業など、決して都市住民は望んでいないと思う。