立法事実がなかった

2018年12月28日

 漁業法改訂で国会に提出された法律案は286ページ、関連法48本、新旧対照表448ページ。こんな膨大な改訂が衆参合わせてたった20時間足らずの審議で通過した。漁業法の新旧対照表では漁業法に組み込まれたTAC法と現行TAC法との該当条文が比較できるようになっておらず、こんな資料で改訂の内容を理解できた人は本当にいたのかと思う。これだけの大改訂を真面目に審議するなら漁業法制定時のように3年程度を要するだろうが、政府には、はなからその気はなかったので、後年「平成最後のどさくさ紛れ訳わからん漁業法」と呼ばれると思う。

 ところで、最大の争点の漁業権の優先順位の廃止に関する国会審議を見て驚いた。優先順位を廃止しなければならない理由として国が上げた「上位の者が申請し免許が更新されない」を証明する立法事実が、区画漁業権において皆無だったのである。それも当然、参入企業も含めその区画漁業権が優先順位第1位だったから。立法事実とは「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実」であり、それがなかったとは、法律を改訂する必要がなかったのである。

 漁場は農地のように個人が財産として所有できないことから、優先順位がその使用権を漁業者の財産として実質上保証してきた。しかし今後は、本人がいくらがんばっていても周りの漁師が撤退したら新基準「適切かつ有効に活用」に適合していないとして、漁業権を取り上げられるようになった。憲法第29条では財産権の制限ができるのは「公共の福祉に適合するように、正当な補償の下に、これを公共のために用ひる」に限定されている。公共の福祉を証明する立法事実もなく、補償もせず、参入企業利益のための優先順位の廃止は、憲法違反でないかと思う。将来新基準により免許を更新されなかった場合は、ぜひとも違憲訴訟を提起し、最高裁の判断を仰ぐべきだと思う。