権威なき社会

2018年2月28日

 都会の高齢者にワカメ作業を手伝ってもらう、漁業版ワーキングホリデー「結(ゆい)づくり」の3年目が、JF鳥羽磯部漁協和具浦支所で始まった。1回目のワカメ刈り取り作業に参加されたのは、全員リピーター。皆さん腕を上げられたのか、初めて受け入れた漁家は「いやー助かる、これなら去年から頼めばよかった」との感想。

 参加者をリピーターにしている魅力の一つは「権威なき社会の人間関係」を味わえることのような気がする。参加者には、作業が終わったあとの作業小屋での一杯飲み会で、三々五々と集まってくる漁師の会話を聞くのがいちばん楽しいらしい。その会話とは、とにかく互いを徹底的にけなし合い、褒めることなど一度もないが、なぜか笑いに包まれるその雰囲気である。

 ある参加者は、今お住まいの地域の自治会会長をしており、住民の懇親を深めるための酒の席も設けているが、何か表面的な付き合いにとどまっているのと比較し、漁師の人間関係が極めて新鮮に映るとのこと。支所運営委員長に対して若い漁師も言いたい放題。地域のリーダーであることは認めるが、食わせてもらっているわけではないので遠慮する必要がない。かといって自分勝手は許されず、一杯飲み会の会話でも「あいつは最近おかしなことをしているが、注意しなければならない」と牽(けん)制も怠らない。

 私流の解釈をしたい。この世のほとんどの人は社会に出て何らかの権威のもとで働いている。公務員であれば政治(法律)という権威、会社員であればお金(株主)という権威。それに従わざるを得ない義務があるが、それゆえに食わせてもらえる利点もある。沿岸漁業者には権威はないが、その半面厳しい自己責任が伴う。何らかの権威のもと、自己を抑制し人間関係を築いてきた都会の人には、自己丸出しの人間関係、言い換えれば互いに個人として尊重しあう漁師社会の魅力、これがリピーターを呼び込んでいる。