成長産業化する漁業とは

2019年8月29日

 「水産業の成長産業化」という言葉が、最近よく漁業関係団体で使われる。これは国の水産政策改革のスローガンに呼応したものであろうが、ではその「水産業」にはすべての漁業が含まれるのか。私は沿岸漁業と漁協はそこに含まれていないと思う。「何ということを言うのか!」とお叱りを受けると思うが、その根拠は次の通り。

 意外なことに「成長産業化」という政策目標が使われているのは農林漁業分野のみ。他産業は成長がお嫌い?なはずがないので奇異に思えるが、それは規制改革会議が、農林漁業改革のために掲げた言葉だから。安倍晋三首相は、農林漁業の規制改革を開始するにあたり、2013年2月の国会施政方針演説で「世界でいちばん企業が活躍しやすい国を目指す。聖域なき規制改革を進める。企業活動を妨げる障害を解消していく」と述べたことを踏まえると、成長するのは企業であり、沿岸漁業をそのための障害として位置付けているとしか受け止められないから。次に規制改革推進会議の水産ワーキンググループ(WG)では、漁業者を減らし成長産業化を達成した事例として大型船が主体のノルウェー漁業を掲げ、漁業者一人当たりの生産量が日本の8倍もあると称賛していること。さらに、今回の改訂漁業法を細かくチェックしてみると、沿岸漁業者・漁協の資源や漁場の管理権限を剥奪・弱体化させるものばかりである一方、成長産業化させたい企業のために、改訂漁業法第43条において漁船の隻数・トン数の自由化という露骨な優遇策を打ち出している。これは沿岸漁業と紛争を必ず引き起こすことから沿岸漁業叩(たた)きにもなる。

 以上からどう考えても「成長産業化」の対象に沿岸漁業は含まれていないはずなのに、その沿岸漁業者により構成された団体が運動方針案で「成長産業化に向けた改革の実践」などを掲げては「勘違いしていませんか」と規制改革の物笑いにならなければよいが。