将来不安で後継者が減る

2018年12月12日

 農林水産省の記者クラブに所属する新聞記者が、漁業法改訂に関連した取材のために答志島に来た。ぜひ漁業権の管理実態を知ってもらおうと、朝9時から午後4時までびっしりと取材していただいた。まず鳥羽からの定期船のデッキの上から菅島水道の左右に広がるノリ、ワカメ、カキの区画漁業権の配置全体を見てもらった。さらに漁船を出してワカメのイカダのところまで行き漁場をぐるりと一周し、ここは成長がよいところ、ここはシケになるとワカメが落下しやすいところなど、決して漁場は一様ではないことから、組合員が公平になるように話し合いをして、それを区分し順に使用している実態を説明した。

 また、大手自動車会社のOBでワカメの手伝いに何度も来ていただいている方を呼んで「漁業の現場を初めて見た頃は、会社方式にすればずいぶんと効率化できるところがあると思った。しかしシケ続きで全然仕事がなかったり、そのあとは朝3時から午後7時まで家族総出で何日も働き続けなければ作業の遅れを取り戻せないなど、天候次第で作業工程が大きく左右される漁業分野は、9時から5時までの企業には向かないと思った」と企業人の立場から企業の漁業参入について語ってもらった。

 「優先順位がなくなり、企業が漁業に参入することをどう思いますか」の質問について漁業者からは「今でも息子に漁業を継がせるかどうか判断に迷う漁業者がいるが、今後は優先順位がなくなり漁業権がいつ企業に取り上げられるかの将来への不安から、漁業後継者が確実に減ることになると思う」であった。これは大変な皮肉である。国が優先順位をなくしたのはより高位の者が申請してくれば免許を失う者が、将来への不安から積極的投資ができないことを回避するという理由であったが、あいまいな新基準「適切かつ有効」は、企業以外のすべての漁業者に将来への不安を拡散させてしまったのだから。