人を魅了する家族漁業

2019年5月10日

 50日間切れ目なく続いた都会の高齢者にワカメ作業を手伝っていただく「結(ゆい)づくり」がようやく終わった。参加者数は昨年より3割増え、総滞在日数は213日に達した。初めて来た人が次は知人を連れてきて、その知人がまた別の知人を連れてきてと、3世代目に当たる方の参加もあった。もう増えることはあっても減ることはないという自信がついた。職歴を聞くとトヨタ、ホンダ、シャープなどの企業のほか、変わったところでは、歯科医、演歌歌手のレコーディングを手掛けた音楽プロデューサーなど本当に多様である。
 例えば、水素自動車の開発責任者を退職された方が3月に参加され「また来年も絶対来る」と言って帰られたが、都合がついたからと早速4月に戻ってこられた。超最先端の科学技術分野にいた方が、その正反対のすべて手作業で原始的な(言い過ぎ! 漁師に失礼!)ワカメ作業のどこに魅力を感じるのか、ご本人も「楽しい」というだけで正直よく分からない。

 おそらくその魅力の一つが、家族で働くその中に入ることで感じる何かであろう。例えば、三菱商事を退職されたばかりで、近く関連会社に再就職し海外赴任する方が、その合間を利用して参加されたが、お礼のメールに「(手伝い先漁家の小学校に入学されたばかりの)娘さんの成長を楽しみに帰国した時にはぜひ答志島を訪れたい」とあった。3泊4日という短い期間であるが、家族とともに働くことで過去の企業的労働環境にはなかった心のつながりを感じられたのではないだろうか。

 最近、経団連会長は「終身雇用なんてもう守れない」と公言したが、本当にそれでよいのか。戦後の経済成長を支えたのは日本型家族的企業経営ではなかったか。労働者を短期的な経営の効率面からしかみないような企業に本当の競争力があるのだろうか。不漁の時にもじっと耐え得る家族漁業の強さを身近にみているとそう思う。