二重思考

2019年6月26日

 参院議員選挙が近づいてきた。今回の漁業法改訂は漁業者の投票行動にどのような影響を与えるのだろうか。素直に考えれば当然従来とは違ってくるはずであるが、漁業者は葛藤の中にあると思う。

 私が熊野の漁村にいた時に国政選挙があった。田舎だから投票先は過去一貫して同じで、選挙カーが来ると住民に動員がかかった。候補者の「皆さんのためにがんばります」という演説を聞きながらだんだん腹が立ってきた。というのは、その漁村は60歳以上の住民が8割、子供が一人もいないという状態であったから。私は住民に「村がここまで衰退したのはこの党のせい。なのにどうして皆さんは同じ党に投票し続けるのか」と質問したことがある。

 住民は十分分かっている。この党に投票しても村は決してよくならないと。しかし、同時に候補者の演説「わが党こそが村を豊かにする」も信じ続けている。矛盾しているが私にはそうとしか受け止められなかった。ところが後日、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」に出てくる「二重思考」がそれに近いことを知って驚いた。その小説は独裁政権下の住民生活を描いたもので「二重思考」とは「全体主義国家では民主主義などは存立し得ないという事実を信じながら、なおかつ、国家を支配する『党』が民主主義の擁護者であるというプロパガンダをも同時に信じること」であり「相反し合う2つの意見を同時にもち、それが矛盾し合うのを承知しながら双方ともに信奉すること」と定義されている。

 独裁国家ならいざ知らず、民主国家で「二重思考」などあり得ないはずだが、近年の実質賃金が減り続ける中での政治への不満と、与党連勝の選挙結果との相反現象をどう説明すればよいのか。おそらく先の政権交代時の経験から今の野党では政権の受け皿になり得ないという国民の苦渋の判断からきた矛盾かも。既存の与野党とは違う第3の政治勢力の登場が待ち望まれる。