ボラの名誉を回復しよう

2013年2月13日

 毎日のように魚を食べる。種類が多く、地方名だけで標準和名が分からないものもある。それぞれの魚にはおいしい食べ方があるようだが、適当に調理し、「エー、あの魚を刺身で食べたのか」とびっくりされ、こちらの方もびっくりする。逆に、地元では食習慣がないネコザメをもらって酢味噌で食べたら感心された。鮮度がよいためか、何を食べても感動的にうまい。なじみのカツオですら、釣れたその日のものは全くの別物。まさに「餅カツオ」で、口の中で簡単にかみ切れない独特のねっとり感は何とも言えない。「浜の味をそのまま消費者に」は永遠の課題であるが、それができれば今の2?3倍の値段でも売れるに違いない。

 中で全く印象が変わったのはボラ。片岡さん宅に初めて呼ばれた時に、白身の刺身が出た。はじめマダイと思ったが、それ以上にうま味を感じたので質問したところ、なんと答えは「ボラ」。思わず身が引けた。ボラといえば、油の浮いた汚い水面でプカプカ泳いでるあれ。一転して恐る恐る慎重に味わってみたが、全く何の臭みもなくやはりうまい。これならマダイといっても十分通用するし、それ以上かも。郷土史に90年前の魚の単価が記録されており、高い順からタイ、ボラ、マグロで、今の価格でキロ1800円に相当。
 ボラとは本来大変おいしい魚だった。たまたま生息水域を人間により汚染され、油臭い魚の代表格とされた。しかし、外海に面し、人がほとんど住まず、熊野の森のきれいな水が流れ込む甫母の海では、今でも本来のおいしさを維持している。

 ボラのうまさに大感激した数日後、市場での価格がキロ25円と聞いて大憤慨。消費者に染み込んだ「ボラは臭い」は根強いのであろう。
 ボラではなく人間が臭くしたのに。人間はボラに謝れ、名誉を回復しろ。マダイに比較し鮮度劣化が早いという課題は残るが、地域を限定すればボラは確実に再評価される。日本人は外国の魚を食べる前に、まだまだ国内に埋もれている安くておいしい魚を再発見していくべきだと思う。