これまでの苦労は

2019年1月17日

 今年は元号が変わるほか、いろいろ新しい出来事が予定されている。中でも商業捕鯨再開と北方領土返還交渉では大きな変化が起こりそうだが、どうしても理解できない共通点がある。国際捕鯨委員会(IWC)脱退の政府の決断は評価したいが、その一方で南極海から撤退するとの方針に大きな疑問を感じた。というのは、私が7年前に南極海調査捕鯨の監督官として乗船した際、シー・シェパードの危険な攻撃に、水産高校を卒業したばかりのまだ子供と言ってよい船員がおびえながらも必死にがんばっていた姿を思い出したからであった。私は南鯨の終わりは母船が妨害船から逃げ切れなくなった時と思っていたが、日本周辺水域だけの捕鯨でよいなら、これまでの苦労は何のためだったのだろうか。

 急に現実味を帯びてきた安倍内閣による日ソ共同宣言に基づく北方領土の2島返還も同じ。面積で7%の2島でよいならこれまでの4島返還交渉の苦労は何のためだったのだろうか。これに関する種々の議論があるが、私は「今は返還条件を決断する時ではない」と思う。なぜなら今の日本の経済政策の下では、北方領土は返還後即「過疎地指定」となり活用できないからである。根室市でさえ人口がピーク時に対し半減しているのに、さらにその先にある島に日本人がどのくらい住むのであろうか。あえて批判を受けることも覚悟で言いたい。安全保障と国土保全のため辺境に住む住民に都市部より高い給与と支援制度を保証しているロシアの方こそが、4島を活用しているのではないか。その証拠に4島のロシア人の人口は横ばいで推移し、戦前住んでいた日本人の人口1万7000人とほぼ同じ程度であるらしい。

 昨年の漁業法改訂に続きTPPと日欧EPAが発効し、今年は地域沿岸漁業を取り巻く環境はさらに悪化する。領土返還が根室市周辺の漁業者が喜ぶものになるためにはその決断の前に改めるべきことがあるのでないか。