Vol.18  【栄養価はウナギに匹敵】夏バテにドジョウ

 魚食の長所に「肉に比べてヘルシーな食材」を挙げるケースが多い。だが、「精力やスタミナを付ける」という肉の得意分野でも、一歩も引かず戦ってきた魚がある。今年も土用の丑商戦を盛り上げたウナギだ。しかし、養殖向け天然種苗の不漁が深刻化し、今後は数量的に厳しくなることは避けられそうにない。ウナギ資源が減りつつある今、「精力やスタミナを付ける」面で代役を任せられる魚はないのか。ウナギに負けない栄養があると古来から言い伝えられてきた“ドジョウ”の可能性に注目する。

胃にもたれぬスタミナ食

ドジョウ料理各種。柳川鍋(手前)、左奥からドジョウ丼、蒲焼、唐揚げ

 暑い夏に「精力は付けたいけれど、胃に重たいのはちょっと…、という方がよく食べに来られますね」と話すのは、浅草でドジョウ専門店「どぜう 飯田屋」を営む五代目・飯田唯之さん。

ドジョウはウナギより脂が少なく「口当たりがサッパリ」。にもかかわらず、「ウナギ一匹、ドジョウ一匹」の言葉があるように、1匹の栄養価はウナギ一匹にも匹敵すると、昔から評されてきた。

特に、カルシウムはウナギの9倍。そのカルシウムの消化を助けるビタミンDもたっぷり。豊富なミネラルに加え、鍋物・汁物といった夏でもアツアツの料理が、内臓を温めて代謝を活発にする。

  • 一般的によく知られている代表的な料理の柳川鍋ならば、一緒に炊くゴボウはドジョウとの相性だけでなく、食物繊維も豊富に摂れる。

    入荷状況にもよるが、「ウナギより安価」な食材でもある。価格は平均キロ2000円前後。最近はキロ4000円前後になっているウナギと比べて値段の面でも魅力的だ。

    調理の難度が普及阻む

    浅草でドジョウ専門店「どぜう 飯田屋」を営む五代目・飯田唯之さん

     ただ、残念なことに、近年のドジョウマーケットは細る一方だ。都内の専門店は5軒のみ。旬の夏に魚屋やスーパーでドジョウを並べた地域も、今ではすっかり見かけない。原因は、泥臭さなどのクセのある風味と、調理の際の難しさにある。

     特に後者は、職人技に頼るところになっている。本来のドジョウ料理は、独特の形をした骨を除去せず食していた。ただ、近年は年齢が下になるほど、口の中に当たる骨が嫌われるようになった。飯田さんの店では、専用の包丁で裂いて、入念に下処理をして近年のニーズに対応している。

    しかし、専門の道具も技術もない家庭に、専門店のドジョウ食をそのまま持ち込むのは難しそうだ。

    金沢の蒲焼を全国区に

     ただし、「石川・金沢近郊の郷土料理『どじょう蒲焼』に消費復活のヒントがある」と、飯田さんはにらむ。特別な道具は使わず、出刃包丁で背開きにしてタレをつけて焼くだけ。入念な焼き上げをすることで、骨の処理がなくても丸ごと食べられるようにしている。「初めて見た時は目をみはった」という驚きの手軽さ。「金沢のやり方が一般に普及すれば、消費の裾野が広がる可能性がある」と、注目している。

     ドジョウがスタミナ食で見直される日が、近づいているかもしれない。

    ドジョウ入門に養殖物

     ドジョウは若い人を中心に、食わず嫌いが多い魚だ。天然特有の泥臭さや骨の固さが消費拡大を阻んできた。しかし、島根・安来(やすぎ)をはじめ、天然物の減少を補うべく、近年になって本格化した養殖物は、その難点が解消されている。

     東京・築地市場で淡水魚を扱う武田商店の武田裕介専務は、自らの店は天然物専門ながら、「養殖物のドジョウは促成で育てているので、骨が当たらずに軟らかい。田んぼではなく、養殖池で育てるから泥臭さもない。これなら、若い人にも食べてもらえるのでは」と期待する。ドジョウ入門編として、養殖物はもっと注目されてよい商材といえよう。

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