<人>片岡秀詔・前熊野漁協組合長/『一日一学』の精神で漁業復興へ

2012年12月10日

熊野灘沖合、深夜2時?。 漁船のわずかな灯りだけを頼りに、仕掛けたエビ網のブイを探す。

JF熊野漁協の前組合長、片岡秀詔さん(61歳)の目が標的をとらえ、おもむろに減速しながら、妻・伊咲子さんに手で合図を送る。伊咲子さんがブイを鉤(かぎ)で引き上げ、自動巻上機に網をかけると、船上すべての電球にスイッチが入り、突然まぶしいほどの光が、船と海を覆う。

船上からもれ出す灯りで、眼前の暗闇に、古(いにしえ)の巨大なエネルギーが創り上げた80メートル級の断崖絶壁群が浮かび上がる。

大都会の摩天楼のように、あるいは荘厳なモニュメントのようにそそり立つそれは、はるか神話の時代、神武天皇が「本州東征」で最初に上陸したとも伝えられる、熊野の景勝地「楯ヶ崎」だ。

漁船は波で揺れながら、楯ヶ崎の岩礁真近まで迫る。片岡さんは、辛うじて船尾が接しない位置まで巧みに舵を操り、伊咲子さんが、時に緩やかに時に速く、網を巻き上げる。片岡さんがそのタイミングで手際よく、網にかかった獲物を選り分けていく。夫婦2人でおよそ30年、すべてが以心伝心、その動きと会話に、一切の無駄はない。[....]