[21]逆からみた力生

2014年8月22日

 この連載では、私が漁業者の皆さんをどう思ったかを伝えてきたが、今回は逆に私がどうみられたかを伝えたい。
 熊野の甫母では、移り住む2年ほど前から当時の漁協が抱えていた問題解決のための相談を受け、現地で講演会も行ったので、私が誰で、なぜ来たのか、皆さん知っていた。しかし、鳥羽の安楽島では、突然現れた私について「あれはいったい何者か」から始まった。

 浜口富太さんが「水産庁を退職して、漁業現場を経験しにきた」と説明されていたが、そう素直には受け止められなかった。まず、「彼は独身だろう。でないと家族を置いてこんなところに一人でくるはずがない」と思われたらしい。その後、家族がいるというのを聞くと、「おそらく奥さんや子供との折り合いが悪く、家におれないのだろう」となった。

 そこで、年末年始の休みに鳥羽に遊びに来た家族を連れて、皆さんへ紹介した。その結果は、「なんだ、普通の家族でないか。ようするに佐藤さんは変わり者だね」という結論になった。余計な説明はせず、初めからひと言「変わり者です」で紹介してもらっていたら、すんなりいったという落ちである。

 講演で出張した時、県庁の方から自分も退職後に同じようなことをしてみたい、心すべきことは何かと質問された。何より無報酬なので、退職後の金銭面での生活設計がまず必要。もちろん奥さんの理解も。でも経験者としていうと、漁村生活にカネはかからない。

 次に、よくも悪くも漁村は閉鎖的。「手伝わせてください」だけでは、おそらく受け入れてもらえない。そこで重要なのは人とのつながり。私の場合も、鳥羽磯部漁協の永富組合長さんや藤原常務さんとの、仕事がきっかけで始まった長いお付き合いがあり、あの人の紹介なら大丈夫だろうと受け入れてもらった。このように、現役の時から漁業者との付き合いを大切にすることが必要。

 最後に「面白いですか」の質問に対しては、一つの事柄をいろいろな視点からみられ、何より、漁業者になってこそ「なるほど、そういうことだったのか」と、今までの疑問が解けたりする時がいちばん楽しいと答えている。