[26]漁師の痛み

2014年11月27日

 今年もカキのシーズンが到来した。昨年は毎日1000個近くのカキをむいていたが、今年はまだ1個もむいていない。手のひらや指先に炎症とひび割れが起こり、痛くてカキむきができないのである。病院からもらった薬を塗っているが全然治らない。どうも昨年のカキむき作業が、私の体の中に隠れていたアレルギー体質を呼び起こし、外部との接触の多い皮膚の部分(足の裏も)に、炎症反応が出始めたのである。

 この症状は、カキむきを始めて2か月たったころ、メスを持つ右手から始まった。カキむきが終われば治るだろうと甘く考えていたが、終わったあとも悪化するばかり。今から思えば、カキむき部屋で隣のおばさんが私に言った「同じような症状で結局治らずカキむきをやめた女性がいる」が当たっていた。また、浜口冨太さんの知っている漁師の中にも同じような人がいるとのこと。「で、その方はどうしましたか」と聞くと、家族を支えている以上、痛いからといって漁師をやめるわけにいかないとのこと。思わずその方に自分の身を重ね、逃げ場のない「漁師の痛み」に顔をしかめてしまった。

 私は、夜中の伊勢エビ漁や定置網交換の重労働に比べ、カキむきを女性向きの「楽な仕事」と思っていた。しかし、どんな仕事にもやってみなければ分からない厳しさがある。見かけで仕事を判断した罰が当たったのかもしれない。この病気は難治性とのことで、いつ現場に出られるか分からない。当分は、オカの上で2つの漁協と漁連のお手伝いに専念することになる。

 この連載は「漁業現場から漁師力生が語る」をテーマにしてきたが、この状況から一時中断させていただくことにした。熊野編と鳥羽磯部編の計43回の連載は、書くのが楽しくてしょうがない時とえらく苦労する時があった。見事にそれを見透かされ、読者の目の怖さを感じることもあった。「楽しみに読んでいますよ」と声を掛けられるのがありがたかった。手が治って再び現場情報をお届けできる日を楽しみにしております。