[15]刺網もお手上げ

2014年5月29日

 半年に及んだカキむき作業も、ようやく終わりに差し掛かった3月下旬、鳥羽市安楽島地区でのカレイ刺網漁が解禁された。同じ刺網漁業であるが、イセエビ漁しか知らない私には、魚類をターゲットにした刺網漁とは、どういうものかと興味津々であった。
 その感想は、網が違った以外は、ほぼ同じ操業方法であった。使用したのは、カレイ網とメバル網の2種類で、カレイ網はエビ網と似て彩色された糸で仕立てられ、メバル網は透明のテグスであった。驚いたのは、メバル網は見事にメバルのみで、その他の魚はほとんど掛からないという高い選択性であった。
 昔、水産庁で母船式サケ・マス漁業の担当係長をしていたころ、流網に掛かる「イシイルカ」の混獲防止対策を迫られた苦い経験がある。問題とされた流網とは、その規模が全く異なるものの、同じ刺網という共通点から、改めて選択性の問題を思い起こしたのである。
 理屈上では、目合いより大きな魚は網に刺さらず、反転し逃げていくと思うが現実はそうでもない。こんな大きな体して、なんで掛かるのかと不思議に思うこともあるが、魚を網から外す作業の過程で、想像がつくこともある。ある時、網がぐるぐる巻きの棒状になって揚がってきた。少しずつ網をさばいていくと、まず大きなウツボが出てきて、次に足が食いちぎられたタコ、最後に中身が半分吸い取られたイセエビが出てきた。何が起こったかすぐ分かり、これには笑った。まずイセエビが掛かり、それを大好物とするタコが食いついた。それを見ていたウツボが、これまた大好物のタコに食いついた。ウツボは、いつものように体をねじらせ、足を食いちぎろうとしたところ、何かに絡まった。あわてて、さらに力いっぱい体を回転させたところ、あえなく「す巻き」に。
 メバル網のような選択性が高いものもあるが、食物連鎖の3段階の魚が同時に掛かるのでは、いかなる刺網でもお手上げ。現場では想定もつかない、面白いことが起こるものである。