[19]凶暴マグロと協業化

2014年7月24日

 恐ろしい体験をした。「伊勢まぐろ」のブランド名で昨年から本格的に養殖マグロの出荷を始めた?ブルーフィン三重のイケスから、マグロを釣り上げさせてもらった時のこと。

 「かかった」と思った瞬間、握る間もなく伸ばしたままの指に、経験したことのない強烈な力とスピードでロープが食い込み、激痛が走った。見事に釣り落とし、左手の指3本が瞬く間に内出血してきた。慣れないと指を骨折することもあるそうで、それを先に聞いていれば、そんな無謀なことはしなかったのに。右手はカキむきでの手荒れで痛みが残っているのに、今度は左手が、もうボロボロである。

 痛い目に合わされたとはいえ、同社には何としてでも成功してほしい。というのは、全国には100を超えるマグロの養殖場があると聞くが、おそらく「漁業者の皆さん」が出資した唯一の養殖場と思うから。

 熊野で伊勢エビ漁の入出港のたびに、大手水産会社系列の養殖場の前を通ったが、「これを地元漁業者ができればどんなによいか」と思っていた。しかし、マグロ養殖には10億円を超える投資、多数の従業員、高度な技術が必要とされ、だから、そのほとんどが大手水産会社や商社の系列会社または地域の有力漁業者によるものである。

 とすれば、今後とも沿岸漁業者は指をくわえて見ているほかないのであろうか。いやそうは思わない。資金は系統トップの農林中金に80兆円と、一般企業に貸すほどある。技術だって、もともとの漁師ならすぐ覚える。問題は大きなプロジェクトを動かす「チームワークに欠けている」その一点に尽きると思う。

 「一国一城の主」といえば聞こえがよいが、それは戦後の食料難や高度経済成長という、魚が高く売れた、沿岸漁業に恵まれた時代に通用した例外ではないだろうか。むしろ日本漁業の伝統は、江戸時代の漁業絵にあるような村人総出の集団操業ではなかったか。東日本大震災被害地での復興支援において「協業化」が要件とされたため、今、改めてそのメリットが見直されているという。凶暴マグロには協業で挑戦しよう。