[6]ワカメから伊勢湾台風をおもう

2014年1月16日

 養殖用の太いロープに、胞子が付いた細いひもを巻く作業を手伝い、その後の生育も順調だったワカメが、昨年12月に入ったある日、突然消えた。容疑者はクロダイかアイゴのようだ。年末には食べられると楽しみにしてたのに、腹が立つ。食害はよくあるが、ここまですっかりやられたのは珍しく、近隣の養殖漁業者も相当ひどい状況だという。やはり昨年の猛暑で海水温が高かったため、食害魚が増えたか、いつもより漁場に滞留していたのではないかという。

 年々海水温が高くなって困ったことがほかにも起こっている。年末になるとシェル(殻付きのカキ)の注文が多くなるが、断ることが増えている。大きなカキしかシェルにならないので、水温の影響でカキの成長も遅くなっているのである。また、ノリも以前は水温の低い期間が長く続き、ノリ網を2回張って長期間摘採ができたが、今は1回張るだけとなった。

 しかし、温暖化の影響はこの程度で済まなくなるのではないか。私は、紀伊半島に住んでおり「東南海地震」のことが気になることから、年配の漁業者に、昭和19年の同地震による津波の体験を度々聞いている。しかし、皆さん異口同音に「伊勢湾台風の方がひどかった」である。熊野の名所「楯ヶ崎」に連なる半島では、高潮が山を越えて反対側にあった倉庫を押し流したという。お世話になった片岡さんの家もこの時に流された。当時の被害額はGDP比較で東日本大震災に相当したという。しかし、話だけでは「津波」より怖い「高潮」のイメージがつかめなかったが、先のフィリピン台風の猛威を見て納得がいった。

 今のまま温暖化が続くと、中心気圧が900ヘクトパスカルを下回るクラスの巨大台風が、毎年1回程度日本にも来ると予測する専門家もいる。そうなれば、漁業はもちろん、農業を含めた食料生産活動は大打撃を被ろう。ワカメの食害からあまりにも飛躍しすぎの感はあるが、現場で感じることは、何か大きな変化が、静かに、しかし確実に迫ってきている、である。