[10]マグロが害魚?

2013年6月7日

 昨年の夏の話。どうもその週は定置網への魚の乗りが悪い。網替えでは運動場の網に大きな破れが何か所も見つかり、「またマグロにやられた」と片岡さんが舌打ち。その頃、すぐ近くの小型定置に30?前後のマグロが1日に10本以上も揚がった。どうしてこちらの定置ではマグロが獲れないのか。その疑問が小型定置網の奥深さを知るきっかけとなった。

 それまで小型定置の印象は、岸寄りにこぢんまり張られ、どこにでもある簡単な漁法であった。ところが実際は、海底の形状、潮流、藻場の有無、魚種ごとに異なる回遊コース、網替え作業での人手などを考慮し一つひとつ違うものであった。片岡さんの場所はアオリイカが集まりやすいため「つぼ網」方式で、目合いも小さく網地も細い。だからマグロに破られる。イカもマグロもと都合よくいかない。しかし、天井網がついているから跳躍力のあるボラも獲れ、これはマグロが獲れる定置網では無理。

 岸壁で隣の定置網の入れ替え作業を見ていると、機械を使って網を釣り上げ省力化されており、こちらと随分違う。質問すると、「つぼ網」には3か所の魚取部が付いており、形状から無理という。だからすべて人力でやることになるが、サンマ船に乗っている息子さんたちが夏場に手伝ってくれているので、何とかこなしている。このような話を聞くと、高齢化により漁法も限られてくると、資源があっても利用できなくなるのかと心配である。

 近年、甫母地先にマグロ養殖場ができてから、マグロが回遊してくることが増えたらしい。それは養殖場から逃げたマグロだ、と普通は思うかもしれないが、そんな脇の甘い養殖場では倒産するし、身質からしても天然マグロ。なぜ増えたのか。沖のマグロが養殖マグロの気配を感じて寄ってくるしかない。広い海原では、餌を発見した仲間のマグロを遠くからでも探知できる能力がないと生きていけないのだろうか。漁村にいると不思議な話を聞いたり、「マグロが害魚」など思わぬ体験をさせてもらう。