3000人の市場見学者

2015年11月13日

 答志支所は離島にあるにもかかわらず、年間3000人を超える市場見学者が来る。幅広い年齢層が来るが、中でも最も多いのは小学生の社会見学で、何と地元より奈良県からの方が多いとのこと。その案内役は、もっぱら漁協の理事で支所の運営委員長をしている中村幸平氏である。委員長職は非常勤が多いが、答志支所は規模が大きいこともあり常勤。しかも中村委員長は、職員よりも早く来て常に現場に立ち、いちばん最後に帰る。委員長になるまでは、現役の漁師だったので沖にも精通し、毎日漁業者や仲買人と顔を接する現場にいるからこそ、職員や組合員に気合が入り、それが好成績にもつながっていると思う。

 委員長が忙しくても、丁寧に案内をするのには訳がある。ある時、大学生が市場見学に来たが、そのうちの1人が委員長に近寄り「小学生の時、丁寧に説明していただいた記憶があり、もう1度答志にと、今回仲間を誘って来ました」とのこと。さらに、引率の先生自身が小学生の時に来たことがあり、「夏休みの課外授業でぜひ答志にと生徒を連れてきた」とも。市場見学では生徒ほったらかしで、先生の方が興味津々で質問攻めにあうらしい。

 委員長の説明のどこに、子供を引き付ける秘訣があるだろうか。それは、ある小学生からのお礼の手紙にあった。「伊勢湾には大きな川を通じ、山の栄養がたくさん流れ込むから、餌が豊富で魚がおいしいと聞いた。二日にわたり別の旅館に泊まり同じ魚が出たのに、答志の魚の方がおいしかった。山を大切にしなければならないという話の意味がよく分かった」あたりであろうか。

 ある時、地元で料理屋をしている仲買人が、委員長に「忙しい時にはほっとけ」と言ったらしい。それに対し「今だけを考えるならそうかもしれない。しかし、長い目でみると、その子供たちが大きくなって答志に来てくれれば、その時にはお前の店のお客も増えるかもしれない。そういう思いで俺はやっているのだ」と答えたら、その仲買人は下を向いたという。