統計は政治の鏡

2019年2月25日

 「統計の不正でつくれ好景気」とは、総務省が募集している「統計標語」のパロディー作品の中の一つ。私は一昨年8月に公表された内閣府世論調査の結果「生活に満足、調査開始以来最高」を見て驚いたことがある。実質賃金が過去25年間で最低になったあとに0・7%増加しただけでそんなことがあるのだろうか、これは「忖度(そんたく)調査」に違いない、統計も注意しないと、と思っていたところ、今回の不正が明るみに出てやはりそうだったのかと。

 「為政者は統計を嫌う」とは有名人の言葉ではなく、私がソ連共産党時代のモスクワ勤務で思ったこと。大使館の書棚にソ連の統計本があった。B5判くらいの厚さ2?程度のもので、あらゆる産業分野が載っていた。最初これはダイジェスト版で、詳しいものが別にあるのかと思ったが、公表されているものはたったそれ1冊だけだった。そこにあった漁業分野は10ページにも満たず、日本の水産関係統計の優秀さを認識した。ただしそれが近年簡素化されてしまったのは残念だが。

 一党独裁のもとでは国民は面と向かって党を批判しないが、統計に悪い数字が並ぶこと、それ自体は強烈な党批判を意味する。だから不都合な統計はできる限り公表しない、その結果がたったこれだけの統計本となったのではないかと推測した。

 ソ連共産党が、農業生産が伸びていると宣伝する中、モスクワの街頭の食料品店の長蛇の列に並ぶ国民は「そんなはずはない」と思っているが、個人では全体のことが分からないので、どうしようもない。そのような当時の光景を眺めていて、正しい統計とは為政者にとって100万人のデモ行進以上の脅威となる、だから長期政権は統計から腐り始める、別の言い方をすれば「統計は政治の鏡」だと。

 冒頭のパロディー作品の中に「官邸の意のままになす数の技」もあり、これに倣えば「官邸の意のままになす法改悪」もありかなと。